高齢社会のゆがみと税の再設計――「資産をめぐる新たな争点」
日本の人口動態は、経済構造を根本から変える段階に入った。国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計によると、2050年時点での総人口は約9,700万人に減少し、うち65歳以上が約4,000万人、全体の約4割を占めると見込まれている。
特に顕著なのが「単身高齢世帯」の急増だ。1990年に約200万世帯だった単身高齢世帯は、2050年には約1,000万世帯へと5倍に膨らむ見通し。こうした家族構成の変化は、相続・税制・社会保障の仕組みにも影響を及ぼしつつある。
さらに、医療の進歩と生活水準の向上により、100歳以上の人口は100万人を突破する見込みだ。これは日本の総人口の約1%にあたり、「人生100年時代」がいよいよ現実のものとなる。
しかし、この長寿化の裏では、支える世代の減少が進み、社会保障制度と税制の持続性が深刻な課題となっている。
高齢者資産が握る「2,000兆円経済」
現在、日本の個人金融資産総額は約2,000兆円に達している。これは日本の名目GDP(約600兆円)の3倍強にあたる規模であり、国民の貯蓄力の高さを示す一方で、資金の多くが経済活動に十分活用されていないという課題もある。
そのうち、およそ6割前後を60歳以上の高齢世代が保有していると推計されている。この構造が形成された背景には、戦後の高度経済成長期に就業した世代が、終身雇用・年功序列・厚生年金制度といった安定的な労働環境のもとで、比較的資産を形成しやすかったことが挙げられる。
さらに1980年代後半から90年代前半のバブル期には、不動産や株式の高騰を背景に、退職金や資産運用益を通じて相応の蓄積が進んだ。
一方、2000年代以降の現役世代は、非正規雇用の増加や実質賃金の伸び悩みに直面し、資産形成が進んでいない。
結果として、資産分布は急速に高齢層へ偏り、「貯める世代」と「支える世代」の断絶が拡大しているといえる。
個人金融資産の内訳を見ると、現金・預金が約50%を占め、株式や投資信託などのリスク資産は2割弱にとどまる。特に高齢世代ではこの「現金重視」の傾向が強く、結果として、相当規模の資金が経済の循環に回らず、企業投資や新産業育成に結びついていない。
こうした資金の滞留構造が、日本経済の低成長と財政難を長期化させる一因とも指摘されている。
税の盲点に潜む「制度利用」
こうしたなかで近年、注目され、かつ問題視されているのが養子縁組の制度利用だ。
養子縁組は市区町村への届出だけで成立するため、判断能力が低下した高齢者でも手続きが通ってしまうという制度上の脆弱性を抱えている。
養子は法的に「子」として相続権を得るため、他の親族でなくとも遺産を受け取ることが可能となる。このため、相続目的で第三者が高齢者と養子縁組を行う事例が報告されており、「合法ではあるが、倫理的・社会的にグレーな領域」として議論を呼んでいる。
裁判事例に見る「意思能力」と法の限界
実際の裁判例でも、養子縁組をめぐる意思能力の有無が争点となるケースが増えている。
横浜家庭裁判所の事例(平成27年)では、認知症を患う高齢女性が意思を十分に理解しないまま養子縁組を行ったとして、縁組の無効が認められた。医師の診断記録や介護保険意見書などから、縁組時点で意思能力が欠如していたと判断された。
一方、東京高等裁判所の判決(令和元年)では、祖父が孫を相続対策として養子にした事案について、「相続目的であっても、親子関係を形成する意思があれば有効」と判断。縁組の動機と縁組意思を区別する考え方を示した判例として注目された。
また、名古屋高等裁判所金沢支部(平成29年)では、認知症が進行していた高齢者と養子縁組をした事案において、縁組時点の本人の理解力・判断力を重視し、有効性が否定された。
さらに、最高裁判所(令和6年)では、養子縁組前に生まれた子が代襲相続できるかが争われ、縁組の成立時期と出生順序が相続関係を決定するとの判断が示されている。
これらの事例はいずれも、「本人の意思能力の確認」や「縁組意思の有無」が法的効力を左右することを示しており、現行制度のもとで意思確認の手続きや判断能力の評価基準が明確でないという課題を浮き彫りにしている。
制度の適正な運用を確保するために
高齢者の判断能力が低下した状態での養子縁組が社会的問題となるなか、制度の適正な運用を確保するためには、
●養子縁組届における意思能力確認の法的義務化
●相続・養子縁組に関する税務署と家庭裁判所の情報連携
●一定額以上の遺産移転に対する課税特例の見直し
といった制度整備と運用強化が求められている。
『富裕層の資産承継と相続税 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】』の著者である
八ツ尾順一・大阪学院大学教授は、「家督相続の影響が残る現行民法のもとでは、養子縁組の要件をより厳格にし、税制上も、配偶者控除を無条件に適用するのではなく、婚姻期間など一定の要件を設ける必要がある」と指摘する。
制度の透明性を高めることは、高齢者の権利を守りつつ、公平な資産移転のルールを確立するうえで不可欠だろう。
高齢化の進展は、単なる人口問題にとどまらず、税・福祉・倫理を横断する新たな課題を突きつけている。「資産を持つ世代」と「支える世代」の断層をどう埋め、税制の公平性と富の循環をいかに両立させるか。今後は、高齢者の資産をめぐる税制や法制度の在り方を、社会全体で議論を深めていくことが求められるのではないだろうか。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
\2月7日(土)-8日(日)限定配信/
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