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納まりを考えるのは人間しかいない
普及にある程度の時間が必要になるとはいえ、BIM化の流れは変わらないでしょう。ではもう人が施工図を描くことはなくなるのかといえば、私は絶対になくならないと思います。人が描く図面の量は減ります。しかし、その場所にふさわしい納まりを工夫し、いくつかある選択肢のなかから一つを選ぶのは人間だけにしかできない仕事です。
なぜなら、その部分についての最善の納まりは一つとは限らず、また機能的な合理性だけで導き出されるものではないからです。例えば「これでは危なそうな気がする」「この納まりのほうが美しい」「こちらのほうが見た目に気持ちが良い」「この手順なら職人もやりがいを感じながら作業ができる」などというさまざまな判断軸が存在します。
ただ物と物がつながっていればよい、想定どおりに動けばよい、という機能だけのことであれば、納まりを深く検討する必要はないかもしれません。しかし、私たちが納まりにこだわるのは、設計が想定している最低限の機能を確保し、工事を手戻りや設計変更なくスムーズに進めるためだけでなく、意匠デザインや構造設計、設備設計のチャレンジを支え、より美しく、安全で快適な建築を誕生させるためです。そこには細部の納まりに対する非合理的で人間らしい選択も必要になります。それがあるからこそ日本の建築は安全で強いだけでなく美しいのだと思います。
建築に限らずにいえることですが、AIが出してくる答えは、すべて過去の事例から学習したものです。過去のデータやさまざまな事例、その組み合わせなどによって解決策として示すだけで、過去にないものや論理的に飛躍したものを自分から編み出すことはできません。言い換えれば、AIがいくら多くの納まりを提案してきても、それを評価し、一つを選択するのは知性と感性を備えた人間にしかできないということです。美しさも判断基準ですし、職人の気持ちをどう汲み取ったかということも選択の要素の一つかもしれません。施工現場の士気も考慮する必要があるかもしれません。「これでいく」という最後の選択はそれほど複雑なものです。
アナログとデジタルの両方を知る価値
BIM化が進み、AIがますます前面に出てこようとしている今だからこそ、人が描く施工図の世界にいることは大きな価値があることだと思っています。
アナログとは連続的に変化する量を、別の連続的に変化する量で表すものです。しかしデジタルにはこの連続性はなく、0と1の信号に置き換えられて記録されます。連続性を担保する曖昧な中間が存在するからこそ、人間的な深みがあります。人間の感覚も思考も、もっといえば全自然界がこの曖昧な中間で出来上がっています。人間的なものはその曖昧さのなかに存在するのだと思います。
建築の納まりも同じです。美しさや安心感といった曖昧で感覚的な世界(アナログ)を知っている人のほうが納まりの選択肢は多く、最終的な決定もより多くの人の共感を呼ぶものになります。
AI時代に必要なのは、人間的な知性や感性において豊かであることです。そのアナログ的豊かさがAIを使いこなすために必要です。今ならまだ納まりの世界で現場に入り、設計者や専門業者、職人や現場監督とのコミュニケーションを重ねながら、より良い解決策を見つけていくというアナログの経験を積むことができます。
現場で職人や設備の技術者がどう手を動かしているのか、何を考えて仕事をしているのかを知ることが大切だということであり、設計者や施工の責任者が現場でどう考えるのか、それを想像できなければならないということです。それができてこそ、納まりの最適解が見つかるからです。その選択は人間にしかできません。


