税務調査の現場では、企業の経営者が気づかない、調査官独自の視点が用いられています。本連載では、税理士・加藤武人氏の著書『ベテラン調査官はここを見てる―「対話方式による52事例」で読み解く!税務調査のチェックポイント集』(大蔵財務協会)の中から一部を抜粋し、事例をもとに、調査官が注目するポイントを紹介します。

その領収書は本当に発行者が書いたものか?

〔調査事例〕
調査官は、レシートを領収書に書き直してもらう理由など、領収書そのものの信ぴょう性を疑う。

 

⑴白紙の領収書
領収書は金銭の受領を証するものであり、購入した品物の内容を証する証憑(しょうひょう)ではありません。購入した品物が記載されていないという理由で領収書を否定することはできませんが、レシートを領収書に書き直してもらうのには何か理由があると考えられます。税務調査では、領収書そのものの信ぴょう性を疑われることがあります。

 

《調査官》同じ筆跡の領収書があります。○○文具店と○○商店の領収書は筆跡が同一のようですが。

 

《経営者》白紙の領収書をあらかじめもらって支払いの時にこちらで、領収金額を書くことになっているんです。

 

《調査官》領収書は相手が書くものです。これでは、領収書の意味がありません。信ぴょう性がありませんね。

 

このような領収書を認めるか認めないか、信じるか信じないかは、調査官の経験と考え方に左右されます。領収書を記載する社員と現金清算をする社員が異なる場合は、何らかの内部牽制が働いていると考えられることができますから、記載金額に一応の信ぴょう性が生じます。記載者と清算者が同一で、かつ、支払者が経営者である場合には、疑わしさが増してきます。いずれにしても、領収書はすべて発行者が記載すべきであることは言うまでもありません。

「通し番号」のナンバーリングもしっかり見ている

⑵通し番号から疑問
調査官は、消耗品費の領収書を確認しながら尋ねました。「○○金物店が発行した領収書ですが、通し番号が近いですね」と。

 

《経営者》そうですか。たまたまじゃないですか。

 

《調査官》いや、それにしても○○金物店の領収書だけを書き出してみると、5 /15の領収書の通し番号が005、 5 /28の領収書の通し番号が007、7 / 1 の領収書の通し番号が008、そして7 /26の領収書の通し番号は009。

 

《経営者》そんなこともあるんですね。

 

調査官は、○○金物店から入手した領収書綴を使用した脱税と見ましたが、これだけでは、確信がもてませんので、さらに、追加で質問を投げかけました。

 

《調査官》通し番号のナンバーリングは、御社のナンバーリングと酷似していますね。

 

《経営者》ナンバーリングの備品はどこでもありますから。

 

と答えがかえってきました。

 

《調査官》これは、○○金物店を反面調査すれば分かることなんですよ。〇〇金物店が脱税ほう助していたことになりますよ。

 

ここまで、会話を繰り返していくうちに、真実はおおむね見えてきます。問題がなければ、「ナンバーリングの備品はどこでもありますから」と答えるよりも、「真っ先に、先方に行って見てきてください」と発言するはず。調査官はこのようなやり取りの中から脱税者か否かの確証を得た上で反面調査をするかしないかを決めます。領収書は、本来商品を販売する者が、売上代金を決済するために作成するものですが、仕入れを行う者が仕入れ代金を決済するために作成する場合には、必ず、取引の相手方の確認を受けることが必要となります。

 

【税務調査のチェックポイント】

①領収書の筆跡はどうなっているか?

②領収書は発行者が記載しているか?

③領収書の通し番号は不自然ではないか?

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