「弟は面倒を見たんだから、それは当然だよ」しかし…
「私も、介護を丸投げしていたわけじゃないんです」
遠方に住んでいたため頻繁な帰省は難しかったものの、病院の付き添いや各種手続きの手伝い、帰省のたびの生活費の支援もしてきたといいます。
それでも妹は、こう言い切りました。
「お姉ちゃんは家を出たでしょ。弟はここで父の面倒を見たんだから、それは当然だよ」
介護への関わり方の違いが、そのまま「取り分」の根拠として扱われている――。真奈美さんには、そう聞こえました。
しかし、遺産分割協議は原則として相続人全員の合意が必要で、誰かを外したまま進めた取り決めは、法的には成立しません。
そこで真奈美さんは、感情的に責め立てるのをやめ、話を「事実」に戻すことにしました。
遺言書の有無。預貯金や証券、不動産の一覧。過去の援助が「特別受益」に当たるのかどうか――。
「一度、全部整理しよう」
そう提案すると、弟は渋い表情を浮かべました。
「そこまでやる? もう父さんはいないんだよ」
その言葉を聞いたとき、真奈美さんは声を荒らげるのをこらえました。感情的になれば、「面倒な姉」という評価を自分で補強してしまうと分かっていたからです。
「だからこそ、でしょう」
静かに、そう続けました。
「父がいない今、私たちが勝手に決めたら、後で必ずしこりが残る。“揉めないため”って言うなら、最初から全員で同じ情報を共有すべきでしょう」
弟は視線を落とし、妹は何も言いませんでした。その沈黙が、真奈美さんには答えのように感じられたといいます。
真奈美さんは「争いたいわけじゃない」と繰り返し伝えました。多く欲しいわけでも、弟や妹を責めたいわけでもない。ただ、自分だけが外された形で話が進むことを受け入れられなかったのです。
結果として、きょうだいは一度立ち止まり、遺言書の有無や財産の全体像を整理したうえで、改めて協議をやり直すことになりました。
「父の遺産が欲しかったわけじゃない」
真奈美さんは、そう振り返ります。
「父が亡くなった夜、私の知らないところで“家族の前提”が出来上がっていた。その事実が、一番つらかったんです」
相続は、お金を分ける場面であると同時に、家族の関係性が露わになる瞬間でもあります。
“揉めないため”という言葉の裏で、誰かが静かに外されていなかったか――。その問いを避けたままでは、本当の意味での円満相続は成り立たないのかもしれません。
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