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短期的なマイナス金利政策は理にかなっているが…
マイナス金利になれば、貯蓄意欲が削がれる。言い換えれば、倹約に税金をかけるようなものだ。そんな課税に人々は嫌気して、余裕資金があれば即座に消費に回すようになる。長く保有すれば、価値が下がるからだ。
マイナス金利になれば、消費が刺激され、経済活動が活発になるため、景気後退期にマイナス金利を打ち出す中央銀行が増えたのである。
個人消費と投資の拡大で景気に弾みをつけるという考え方は、一時的あるいは短期的な対策としては理にかなっている。考え方としては、エンジンのかからないガソリン車を始動させる場合に似ている。車がなかなか始動しない場合、エンジンに少し多めに燃料を噴射することでうまく始動することがある。ただし、燃料を噴射しすぎると、エンジンが詰まり、別の問題を生じさせてしまう。
中央銀行がゼロに近いかマイナスの金利を長期間維持している状態は、このように車にたとえるとわかりやすい。ECBはゼロ金利とマイナス金利を合わせて10年にわたって実施し、2022年末にようやくゼロ金利を抜け出した。
長期間、金利が抑え込まれていると、人々の習慣が変わり、貯蓄よりも支出を志向するようになる。
現金がマイナス金利の「ブレーキ役」になる
銀行、とりわけ中央銀行は、現金を嫌う。現金は、マイナス金利を適用する力を削ぐからだ。仮に、今、中央銀行に、金利をマイナス5%に引き下げる力があるとしよう。私たちが1万ドルを1年預ければ、500ドル取られる計算だ。1年後には、9500ドルに目減りするのである。
だが、銀行から資金を引き出して、タンス預金にしておけば、1年後も元の1万ドルを維持できる。増えるわけではないが、目減りすることもない。
個人も企業も、マイナス金利の環境なら、預けてある資金を引き出して現金に換えられるのだが、多くはそうしない。資金を引き出さない理由としては、わずかな額を引き出して現金化し、その後、必要に応じて銀行システムに再び戻すのが面倒だからだ。
少額〜中程度の額の現金であっても、手元に保管する場合、それなりの費用がかかる。金庫を購入するか、貸金庫を借りる必要がある。引き出しの中やベッドマットレスの中に隠すといったタンス預金なら、保管費用はかからないが、盗難に遭うかもしれないし、うっかり古くなったマットレスを捨ててしまうかもしれない。
多額の現金を保管するとなれば、もっと費用がかかる。莫大な金額を扱う投資家なら、プラス金利に変わるまで、引き出しやマットレスに保管というわけにもいかず、庭に穴を掘って埋めるのも現実的ではない。金庫室を建設して多額の現金を保管するとしても、金庫室の警備・保護に警備員を雇うとなれば、ずいぶん費用がかかる。
だから、個人や企業は、しかたなくマイナス金利を我慢しようと考えるわけである。ただし、金利の引き下げが続けば、銀行離れと現金化が進む可能性は高い。
そこで、中央銀行による低金利政策推進にブレーキをかけたり、阻止したりする役割を担うのが現金だ。現金が使いやすくなり、銀行システムでの出し入れが容易になれば、ゼロ金利制約が維持される可能性も高まる。逆に脱現金となれば、この抑止力がなくなり、中央銀行はマイナス金利を実施し放題になる※。
※ 中央銀行は、現金のブレーキ効果を排除する手段の1つとして、独自のデジタル通貨の発行に関心がある(Ozili 2023)。
では、中央銀行には、どの程度の権限を与えるべきなのか。マイナス金利になると、中央銀行が経済をコントロールする権限はさらに大きくなる。現金が確実に存在し続ければ、中央銀行がコントロールする力は小さくなる一方、個人や企業の力が大きくなる。どの辺りで折り合いをつけるのか、絶対的な正解はない。
マイナス金利は、貯蓄意欲を削ぐことから、景気低迷を打開する特効薬とは言えない。マイナス金利は、景気後退という問題を解決する取り組みではあるが、今度は貯蓄の減少という別の問題が生じる。
