示談交渉・裁判において争いの元となる「過失割合」
示談交渉においてよく問題になるのが「過失割合」である。
交通事故においては加害者にすべて過失があるケースばかりではない。むしろ被害者にも前方不注意や飛び出しなどの過失があるケースも多い。そこで全体を100として0対100とか30対70というように、両者の過失の割合を決めるのである。
この割合に応じて損害賠償の負担をすることになるのだが、たとえば損害額が1000万円だとすると、過失割合が30対70の場合、被害者は損害額から自分の過失分の30%を減じた700万円を受け取ることになる。これを「過失相殺」と呼び、賠償金額決定の原則となっている。
なお、自賠責保険において過失相殺はよほどの重過失がない限り行われない。というのも自賠責保険は被害者救済の大前提に立っているため、被害者に7割以上の過失が認められた場合に限って相応に減額されることになっているからである。
任意保険会社との示談交渉、あるいは裁判においてはこの過失割合でもめることが多い。これによって賠償額などが変わってくるので致し方ないところだろう。
実務においては、この過失割合の判断基準は判例タイムズ社の『別冊判例タイムズ38民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』を基本としている。これは、東京地裁民事交通訴訟研究会の編によるもので、要するに裁判官が編纂しており、訴訟における基準であるため、その前段階の示談交渉でも活用されているのである。
過失割合については、裁判所から明確な基準が公表されているのだが、この基準に当てはめる事実、つまり事故が起きた状況(事故様態)がどのようなものであるのか、そこに問題が存在する。
過失割合を判断するには、どのような事故状況であったかの資料が重要であるが、実際のところは警察の捜査記録を基礎とすることがほとんどである。しかし、この捜査記録にも被害者を苦しめる問題がある。
警察は、あくまでも刑事事件(交通事故であれば、過失運転致死傷罪)の立件を前提にしている。交通事故が起きると、救急車のほかに警察が現場に駆け付ける。
そして警察は、事故現場で加害者や目撃者を立ち会わせ、どのような事故であったのかの見分を行う。また、当事者や目撃者などの証言から供述調書を作成する。これらの証拠をもとに、刑事事件としてどのような処罰を下すのかを判断するのである。
この事故後に警察が作成したさまざまな資料が、事故状況を証明する証拠としてクローズアップされることになる。
事故の衝撃の度合いはどの程度なのか? どのような交差点で、信号の色は何色だったのか? 速度はどの程度であったか? 一時停止したのか?などだ。
ケガをしているのに、人身事故扱いにならないケースも
ところが、私たち被害者側の弁護士は、その警察の捜査に思いのほか苦しめられることが多い。
たとえば交通事故の相談にきた依頼者の中には、ケガをしているのに人身事故扱いをしていないケースが散見される。その中には警察に露骨に人身事故扱いを嫌がる言葉を投げかけられたという人がいる。
刑事事件扱いにするとその後の対応が面倒で、手間が増えるから嫌がるのだろうか?
しかし、それによって交通事故被害者は後から事故によるケガなのかどうかを疑われてしまうのである。このような場合、我々は人身事故として再捜査を求めることもあるが、捜査がやり直しになるため警察は非常に腰が重い。
人身事故として警察が捜査した場合でも、その捜査資料が不十分であったり事実と異なる場合は、被害者は非常に不利益を被ってしまう。たとえば実況見分は事故直後に行われるのが通例である。
しかし、被害者は負傷によって救急搬送され、被害者不在のまま加害者のみの立ち会いで作成されることが少なくない。本来公正なものにするには、後日、被害者立ち会いのもとで作成すべきであるが、弁護士が強く依頼しない限り、そのようなことを行うケースは少ない。
特に被害者が死亡してしまった場合や、頭部外傷で記憶がない場合などは、被害者の証言を得ることができないのだ。どうしても加害者の説明に基づく捜査になってしまう。
そして、刑事被疑者の立場に立つ加害者は、自己弁護供述をする可能性が高いが、警察はその指示説明あるいは供述を鵜呑みにして事故様態を組み立てているケースが少なくないのである。
この話は次回に続く。