息子にとっては「今さら」だったのかもしれない
後になって佐藤さんは、息子の立場を想像するようになりました。
「子どもの頃、あまり構ってやれなかった。相談に乗ることも少なかった。それなのに、年を取ってから急に体調や通院の話をする。息子からすれば、『都合がいい』と思われても仕方なかったのかもしれません」
佐藤さんにとっては初めての「頼る行為」でしたが、息子にとっては、それがこれまでになかった分、重く感じられた可能性があります。
「親らしいことをしてこなかったのに、親として扱われたいように見えたのかもしれません」
その日以来、佐藤さんから息子に連絡することはなくなりました。電話帳を開いては閉じ、LINEの画面を見つめては消す。その繰り返しです。
夕食は一人。スーパーで買った総菜を並べ、テレビもつけず、黙って箸を動かします。
「時計の音だけが響くんです。ああ、完全に一人なんだなって」
内閣府『高齢社会白書(令和6年版)』によると、65歳以上の単身世帯は増加傾向にあり、家族との交流が「ほとんどない」と答える高齢者も少なくありません。佐藤さんの状況は、決して特別なものではないのです。
佐藤さんは、今も息子を責める気持ちはないと話します。
「ただ、親としての時間を取り戻そうとしたら、もう遅かった。それだけのことなのかもしれません」
関係を修復したい気持ちがないわけではありません。それでも、「もう一度連絡する勇気は、正直ありません」と語ります。
「また拒絶されたらと思うと、怖いんです」
親子の関係は、年齢を重ねれば自然に深まるものではありません。むしろ、若い頃に積み重ねた距離感が、老いとともに露わになることもあります。
誰もいない食卓で、佐藤さんは今日も静かに食事をとります。その沈黙の中にあるのは、後悔と諦め、そして「息子の気持ちも分からなくはない」という苦い思いでした。
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