(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親と成人した子どもの関係は、年を重ねるほど複雑になります。若い頃は距離を保っていた親子が、老いをきっかけに急に近づこうとし、かえって関係がこじれるケースも少なくありません。内閣府『高齢社会白書(令和6年版)』でも、高齢期の孤立や家族関係の希薄化は重要な課題として指摘されています。親の「頼りたい気持ち」と、子の「今さら」という感情がぶつかるとき、取り返しのつかない断絶が生まれることもあります。

息子にとっては「今さら」だったのかもしれない

後になって佐藤さんは、息子の立場を想像するようになりました。

 

「子どもの頃、あまり構ってやれなかった。相談に乗ることも少なかった。それなのに、年を取ってから急に体調や通院の話をする。息子からすれば、『都合がいい』と思われても仕方なかったのかもしれません」

 

佐藤さんにとっては初めての「頼る行為」でしたが、息子にとっては、それがこれまでになかった分、重く感じられた可能性があります。

 

「親らしいことをしてこなかったのに、親として扱われたいように見えたのかもしれません」

 

その日以来、佐藤さんから息子に連絡することはなくなりました。電話帳を開いては閉じ、LINEの画面を見つめては消す。その繰り返しです。

 

夕食は一人。スーパーで買った総菜を並べ、テレビもつけず、黙って箸を動かします。

 

「時計の音だけが響くんです。ああ、完全に一人なんだなって」

 

内閣府『高齢社会白書(令和6年版)』によると、65歳以上の単身世帯は増加傾向にあり、家族との交流が「ほとんどない」と答える高齢者も少なくありません。佐藤さんの状況は、決して特別なものではないのです。

 

佐藤さんは、今も息子を責める気持ちはないと話します。

 

「ただ、親としての時間を取り戻そうとしたら、もう遅かった。それだけのことなのかもしれません」

 

関係を修復したい気持ちがないわけではありません。それでも、「もう一度連絡する勇気は、正直ありません」と語ります。

 

「また拒絶されたらと思うと、怖いんです」

 

親子の関係は、年齢を重ねれば自然に深まるものではありません。むしろ、若い頃に積み重ねた距離感が、老いとともに露わになることもあります。

 

誰もいない食卓で、佐藤さんは今日も静かに食事をとります。その沈黙の中にあるのは、後悔と諦め、そして「息子の気持ちも分からなくはない」という苦い思いでした。

 

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