(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親と成人した子どもの関係は、年を重ねるほど複雑になります。若い頃は距離を保っていた親子が、老いをきっかけに急に近づこうとし、かえって関係がこじれるケースも少なくありません。内閣府『高齢社会白書(令和6年版)』でも、高齢期の孤立や家族関係の希薄化は重要な課題として指摘されています。親の「頼りたい気持ち」と、子の「今さら」という感情がぶつかるとき、取り返しのつかない断絶が生まれることもあります。

「もう、連絡してこないで」息子からのメッセージのワケ

「正直に言えば、いい父親だったかと聞かれると、自信はありません」

 

そう語るのは、埼玉県内で一人暮らしをする佐藤健一さん(仮名・73歳)です。妻には数年前に先立たれ、現在の収入は公的年金のみ。老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせて、月額はおよそ16万円です。

 

佐藤さんは現役時代、仕事一筋の生活を送っていました。帰宅は遅く、息子が子どもの頃も、学校の出来事や友人関係について深く話すことはほとんどなかったといいます。

 

「自分のことは自分で決めろ、という考えでした。過干渉は良くないと思っていましたし、実際、あまり興味を持ってやれなかった部分もあります」

 

息子が進学や就職で悩んだときも、佐藤さんは細かく口を出しませんでした。相談されても、「自分で決めたなら、それでいい」と返す程度。親子の距離は、もともと決して密なものではありませんでした。

 

変化が訪れたのは、妻が亡くなってからでした。

 

「急に家の中が静かになって……誰とも話さない日が続いたんです」

 

それまで家庭内の会話を支えていた妻を失い、佐藤さんは初めて、強い孤独を感じるようになりました。そこで、これまであまりしてこなかった「息子への連絡」を、少しずつ増やしていったといいます。

 

体調のこと、天気のこと、通院の話。佐藤さんにとっては、誰かとつながっているための近況報告でした。

 

「今さら頼るのはどうかとも思いました。でも、完全に黙っているのも違う気がして……」

 

問題の出来事が起きたのは、冬のある日でした。軽い風邪症状で病院を受診した佐藤さんは、その帰り道、息子にLINEを送りました。

 

〈今日は病院に行ってきた。少し風邪気味なだけだから心配しなくていい〉

 

既読はすぐにつきました。しかし、返信はありません。その翌日、短いメッセージが届きました。

 

「もう、連絡してこないでくれ。正直、迷惑だから」

 

佐藤さんは、しばらく画面を見つめたまま動けなかったといいます。

 

「怒りよりも、ショックのほうが大きかったですね。ああ、そう思われていたのか、と」

 

次ページ息子にとっては「今さら」だったのかもしれない
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