「最初は冗談だろうと。でも、妻はいたって真剣な顔で…」
「定年の日、会社で花束をもらって、晴れやかな気持ちで家に帰ったんです。そしたら妻が、まるで用意していたかのように『これからは家のことお願いね』って言いながら、紙を1枚手渡してきました」
そう語るのは、東京都内で営業職として40年勤め上げ、先月60歳で定年を迎えた河合浩一さん(仮名)。
手渡された紙には「掃除(月・木)」「洗濯(水・土)」「夕食後の皿洗い(毎日)」といった項目が並ぶ、手書きの“家事当番表”が記されていたといいます。
「最初は冗談だろうと思いました。でも、妻はいたって真剣な顔で、『今まで家庭のことは全部こっちがやってきたんだから、これからは二人で分担していこう』と」
思えば、現役時代は仕事優先で、家のことはほとんど妻に任せきりだった――。そう気づいた河合さんは、戸惑いつつも当番表を受け入れる決意をします。
退職後の生活は想像以上に“未知”の連続でした。
「一日中家にいるのって、こんなに時間が長いのかと驚きました。朝ドラを見てからボーッとしていたら、もう昼ごはん。しかも、自分で用意しなきゃいけない」
特に戸惑ったのが、家事と家事の“間の過ごし方”だったそうです。
「現役時代は、分刻みで仕事をこなしていたのに、家では『今、何すればいい?』と手持ち無沙汰になる。掃除も洗濯も思ったより重労働でした」
さらに妻からは「やってもらえるのは助かるけど、“自分のやり方”に変えないで」と細かな指摘が飛び、夫婦の間にぎこちない空気が流れることも。
そんなある日、テレビで紹介されていた「シニア男性の料理教室」が目に留まりました。
「これなら、家事にも活かせるし、外にも出られる」と思い、思い切って参加。同じように“退職後の居場所”を探している男性たちと交流するうちに、家事や夫婦関係への向き合い方も変わっていったといいます。
「妻に言われた通りに動くのではなく、自分なりに“家庭に貢献できること”を考えるようになったんです」
最近では、週末の夕食を担当し、得意料理の煮物は妻からも好評を得ているとか。
