「ママのお墓は、あなたの好きな場所に買っていいからね?」
佐藤さんの母親は、マンションのリビングでずっとテレビを見て暮らしていました。
「料理も掃除も下手で、任せない方が私も気が楽。出かけるのも好きではなく、部屋にいるのが好きなようでした。私は会社帰りに食材を買って、帰宅後すぐ料理して。まあ、手抜きメニューでも文句をいわずに食べてくれるので、その点は助かりました」
母と娘の静かな毎日でしたが、ある日体調不良を訴えた母親を病院に連れて行くと、深刻な病気が進行していることが判明します。
最初は動揺していた母親も、時間がたつと次第に落ち着いてきました。亡くなる1ヵ月前になると、入院先のベッドの上で、お見舞いに行くたび、自分が亡くなったあとのことを気にかけるようになりました。
「母は〈みどりちゃん、ママのお墓はみどりちゃんの行きやすい、好きなところに買っていいからね。ママは場所にこだわらないからね〉〈お葬式は家族葬でいいからね〉」などと口にするようになりました。私は〈うんうん、わかったよ〉といつも答えていました」
夢枕に立っても「全力スルー」
佐藤さんは、母親が希望する葬儀を行い、交通の便のいい場所にお墓を購入したのでしょうか?
「いいえ、一切やっていません。亡くなったあとは直葬として、あとは業者に委託して海洋散骨を行いました」
「私は50代の独身会社員で、自分の生活や老後を考えるだけで精いっぱい。お墓を買うお金も、維持するお金もありません。家族葬を行っても来てくれる親族は皆無。母は父の親族を嫌っていて、父の生前から付き合いを絶っていたし、自分の親族ともまったく付き合ってこなかったのです」
「私は叔父叔母の顔も知らないし、いとこが何人いるのかもわかりません。母には申し訳ないですが、私1人が立ち会うために数十万円もお金をかけられませんよ」
佐藤さんはまじめな顔で話してくれました。
株式会社鎌倉新書が集計した調査結果によると、葬儀社への平均支払額は104.7万円、中央値は93.0万円。近年では葬儀もシンプルになる傾向にありますが、それでも決して安価とはいえない金額ではないでしょうか。
「母との約束を破ったかたちですが、たった1人で母を見送るために、爪に火をともすようにして貯めた貯金を数十万円、あるいは100万円以上減らしてまでやることなのでしょうか? もちろん、余裕があれば考えるかもしれませんが…。申し訳ないですが、相続財産もない中での無理な注文です。亡くなった母も、私の実情を見れば納得せざるを得ないでしょう」
佐藤さんは、もし亡き母親が夢枕に立っても「全力スルー」するつもりだといいます。
「いま生きている私の生活や老後が大切。申し訳ないけれど、それが本音です」
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