「毎月これくらいで十分」——団地で暮らす68歳女性
「特別なことは何もしていません。ただ、昔から無駄遣いをしないだけです」
そう語るのは、首都圏の市営団地で一人暮らしをする田中和子さん(仮名・68歳)。築40年以上の団地の一室で、朝は簡単なトースト、昼は前日の残り物、夜は自炊という生活を続けています。
家計簿を見ると、月々の生活費はおよそ15万円前後。年金を中心とした収入で、外食や旅行をすることはほとんどありません。
「服も、何年も同じものを着ています。団地の中で浮かないように、というのもありますけどね」
近所づきあいは最低限で、自治会の集まりにも顔は出すものの、あくまで控えめな存在です。周囲から見れば、特別目立つことのない、ごく普通の「団地のおばあちゃん」でした。
そんな和子さんの生活に、思わぬ光が当たったのは、ある手続きをきっかけとした出来事でした。
「相続の関係で、通帳をまとめる必要があって。窓口の方に『こちら、残高が大きいので確認しますね』と言われたんです」
複数の口座に分かれていた預金を合算すると、その総額は1億円を超えていました。
「自分では、そんなにある感覚はなかったんです。使わなければ、減らないだけで」
和子さんがまとまった資産を得たのは50代のときでした。両親が相次いで亡くなり、自宅と金融資産を相続。自宅は売却して現金化しましたが、その後も暮らしぶりを変えることはありませんでした。
「急にお金が入っても、生活を変えたらきりがないと思ったんです。贅沢に慣れたら、元には戻れなくなるでしょう?」
株や投資信託といった積極的な運用は行わず、主に定期預金で保有。利回りは低くても、「減らさないこと」を最優先にしてきました。
和子さんのようなケースは、決して多数派ではありません。ただ、金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』によると、60代単身世帯の金融資産の平均値は1,468万円である一方、中央値は210万円。少数が全体の平均を押し上げている実態が浮き彫りになっています。
「お金は安心材料です。使わなくても、“何かあっても大丈夫”と思えるだけで違う」
実際、医療費や介護が必要になった場合、まとまった資金があることは選択肢を広げます。和子さんも、将来の施設入居や在宅サービスの利用を視野に入れています。
