「灯油はもういい」父が助けを拒み続けた理由
「父は、明らかに困っているはずなのに、助けようとすると怒るんです」
そう語るのは、神奈川県内に暮らす会社員の高橋誠さん(仮名・48歳)。問題の父・正一さん(仮名・76歳)は、地方都市で一人暮らしをしています。
正一さんの年金収入は、国民年金と厚生年金を合わせて月約15万円。持ち家はあるものの築40年以上が経過し、冬場は暖房費が重くのしかかります。
「灯油代を出そうとすると、『もういい』『寒さには慣れてる』と突っぱねられる。食料を送ろうとしても、『余計なことするな』って」
電話口で繰り返されたのは、こんな言葉でした。
「灯油はもういい」
「パンはカビても食える」
違和感を覚えた高橋さんが、久しぶりに父の家を訪ねたのは、冬の終わりでした。
「玄関を開けた瞬間、冷たい空気が流れてきました。暖房は止まったまま。冷蔵庫を開けると、ほとんど何も入っていなかった」
台所には、賞味期限が大きく過ぎた食パンが数袋。カビが広がっているものもありました。灯油タンクは空。居間には、古い電気ストーブが置かれていましたが、コードは抜かれたままだったといいます。
「正直、言葉を失いました。これで『困っていない』と言い張るのかと…」
それでも正一さんは、支援を受けることを拒み続けました。
「俺の人生だ。みじめに扱うな」
高齢男性の中には、「家族に迷惑をかけたくない」という気持ちに加え、「まだ自分は大丈夫だ」と考え、支援を受けることに抵抗を示す人も少なくありません。現役時代に家計を担ってきた経験がある場合、立場の変化を受け入れにくく、支援を申し出られること自体に戸惑いを覚えるケースもあるのです。
正一さんもまた、現役時代は一家の大黒柱でした。
「父はずっと『家族を守る側』だった。守られる側になることを、どうしても受け入れられなかったんだと思います」
