前回は、法人が加入できる公的制度である「小規模企業共済」と「経営セーフティ共済」の活用について説明しました。今回は、銀行融資を活用する際のポイントなどを見ていきます。

資産を会社に譲渡する「タイミング」が重要となる理由

今回は、法人設立の際にぜひ押さえておいていただきたい、「銀行融資」のポイントについて解説したいと思います。

 

財産承継対策として不動産の法人化を行うためには、子どもが法人を設立し、その法人に父親(推定被相続人)が持つ建物など資産の一部を譲渡することが一般的です。

 

この場合、建物や土地の売却代金を法人から父親にどういう形で支払えばいいのかが問題になります。法人が父親に代金を分割で支払うといった方法もありますが、法人が銀行から購入資金の融資を受けて父親に支払うという方法もあります。

 

注意すべきは、父親が法人に不動産を売却すると、父親が有する財産が不動産から、売買代金請求権といった金融資産に変わることになります。この段階で相続税が発生してしまうとその債権額に対してストレートに相続税が課税されてしまい、相続税の節税の目線で考えると、かなり不利な状況になってしまいます。

 

そのため、相続発生までの期間にある程度の余裕を持って、長期的プランで実行していくことが必要です。父親がまだ元気なうちにやっておかなければならない方法といえます。

 

例えば、1億円で子どもの会社に建物を売却したときに、売却直後に相続が発生してしまった場合は、子どもの会社からの売却代金1億円がそのまま相続財産として課税対象になってしまいます。

 

一方で、法人への売却をしないで商業ビルをそのまま保有し相続が発生した場合には、仮に時価が1億円だったとしても固定資産税評価額(=相続税評価額)はそれよりも低いはずですし、加えて貸家の相続の場合には評価額を30%減額させることもできます。

 

法人化して、資産を会社に譲渡するタイミングがいかに重要であるかがわかるはずです。早め、早めに動くことが重要といえます。

税理士と銀行がタッグを組んで提案してくるケースも

なお、売買代金を分割で回収する場合、父親が回収債権を長期間保有していくことになってしまいます。そこで、法人は銀行からの融資を受け、その資金をすぐ父親に支払ってしまい、父親はその売却代金を元に孫などに教育資金の生前贈与をしたり、子どもや孫に対して住宅取得資金贈与を行ったり、あるいは年間110万円の範囲内でコツコツと贈与したりするといった方法で相続税の対象資産を圧縮させていくことが可能になります。年間110万円程度といっても、10年、20年と継続できれば、大きな金額になるはずです。

 

銀行から受けた融資は、子どもの会社が家賃として入ってくる資金から返済していくことになり、全体として資産を効率的に回転させることができます。

 

ちなみに、子どもが株主として設立した法人は設立されたばかりのために、銀行に対して信用力がありません。資金を融資してもらえるか難しいところもありますが、父親の個人保証などの手助けを借りる、あるいは純粋に不動産の担保価値で融資をしてくれる金融機関を探してみる、などいろいろと対応方法はあります。

 

実績のない新設法人に対する融資の対応は、金融機関のスタンスによって大きく異なりますが、最近では将来のキャッシュフローに対して資金を融資してくれるところも増えつつあります。

 

金融機関も最近では競争が激しく、通常の融資だけでは勝てなくなっており、提案型の融資に積極的になっています。税理士と銀行がタッグを組んで提案することも多く、そういう意味ではよい税理士と融資に積極的な銀行に、いかに巡り合えるかも相続で成功できるかどうかの分かれ目といえます。

 

不動産の法人化にはメリットとデメリットがあります。両者をきちんと理解した上で、詳細は専門家である税理士などに相談してみることです。

本連載は、2013年7月29日刊行の書籍『ビルオーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ビルオーナーの相続対策

ビルオーナーの相続対策

川合 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

ビルを所有しているような資産家であれば、顧問税理士をつけて節税も抜かりなくやっていて不思議はなさそうなものですが、実はほとんど有効な手だてを講じていない人が多いのが現実です。 そのため、そのような人は相続税で数…

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