前回は、不動産を法人化することで、具体的にどれだけの節税効果が得られたのかを解説しました。今回は、建物を法人化した場合に生じてくる、借地権などの問題点について見ていきます。

早めに実行を決断したい「相続財産の法人化」

前回、前々回と紹介したAさんのケースでは、今後発生する家賃が子どもや孫が株主となっている法人にたまっていくために、将来の相続財産の増加を防ぐことになりました。土地はAさん名義のままなので地代を法人から受け取るスタイルに変わります。法人から入ってくる地代が老後の生活費、孫へのお小遣いの原資になるわけです。

 

Aさんは毎年お金がたまっても特に使うあてもなく、むしろたまればたまるほど相続税が高くなるというジレンマがあったのですが、これが無事解消でき、非常に余裕のある環境で老後をすごすことができることになったわけです。

 

こうした相続財産の法人化で大切なのは、比較的早い段階で実行を決断することです。最低でも、平均余命まで後10年以上の余裕を持って法人化を決断すべきです。詳細は、税理士など専門家に一度相談してみることをおすすめします。

 

ちなみに、Aさんのように建物だけを法人名義にした場合には、Aさんが会社に土地を貸していることになるため、借地権の問題が出てきます。同族会社間での借地権の問題については、連載第5回で詳細に述べているために省略しますが、ポイントは大きく分けて3つあります。

 

●「土地の無償返還に関する届出」の提出(連載第5回参照)

●土地評価は自用地評価×80%になること

●小規模宅地等の特例も適用できる

新設法人で一定の条件を満たすと消費税が免除される

また、ここで一つ注意しておくことがあります。それは、今回Aさんは設立した法人に商業ビルを譲渡しましたが、建物の譲渡時には消費税が課税されることがあるという点です。現在の消費税率は5%のため、1億円(税抜き)の売却価格なら500万円の消費税をAさんは国に納める必要があります。

 

ここで注目したいのが、新設法人で一定の条件を満たした場合には、2年ほど消費税が免除されるということです。この免除期間の制度を有効に使えば、テナントから入ってくる家賃収入にかかっていた消費税600万円が免除されることになります。

 

■家賃6000万円×5%×2年分=600万円

 

この600万円の消費税節税メリットを生かせば、法人に譲渡したときに課税される消費税500万円は、新設法人の節税メリット600万円で相殺され、さらに100万円の節税メリットが生じることになります。

 

ただし先述した通り、平成25年以降の消費税の免税の判定は非常に難しくなっています。そのため、税理士としっかり連携し、タイミングや事業年度、その他の免税判定項目の調整を検討していくことが重要です。

本連載は、2013年7月29日刊行の書籍『ビルオーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ビルオーナーの相続対策

ビルオーナーの相続対策

川合 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

ビルを所有しているような資産家であれば、顧問税理士をつけて節税も抜かりなくやっていて不思議はなさそうなものですが、実はほとんど有効な手だてを講じていない人が多いのが現実です。 そのため、そのような人は相続税で数…

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