インフレ慣れか?「物価見通し」は悪化しても「暮らし向き」が良くなったワケ【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2025年12月12日)

インフレ慣れか?「物価見通し」は悪化しても「暮らし向き」が良くなったワケ【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

2025年12月の家計マインド(暮らし向き判断DI)は3ヵ月連続で改善し、ついに約1年2ヵ月ぶりの水準までV字回復を遂げました。その背景にあるのは、政府補助金によって約4年3ヵ月ぶりの安値となったガソリン価格や、値上がりの主役だったお米・コーヒーの勢い低下です。本稿では景気の予告信号灯としての身近なデータから、2025年12月消費者マインドアンケート調査を取り上げます。エコノミストの宅森昭吉氏の解説をみていきましょう。

物価は「上昇する」再び過半数に…25年12月DI、高止まりの現実

25年12月の物価上昇判断DIは86.0と11月の82.1から2ヵ月ぶりの上昇だが、25年2月90.2を山とするダウントレンド内の動き。

 

消費者マインドアンケート調査は5段階の評価の回答なので、景気ウォッチャー調査と同じ手法で物価上昇判断DIを作ることができます。物価上昇判断DIは、調査開始の16年9月から22年1月までは60台・70台で安定推移していましたが、ロシアがウクライナ侵攻した月の22年2月調査以降、物価上昇判断DIは80台・90台で、物価が上昇するという見方が強い状況が継続しています。

 

22年10月に90.4をつけたあと、80台後半の高水準での推移が続き、23年は6月に90.7をつけました。そこから振幅をともないつつ24年9月の80.3まで一旦低下しましたが、反転上昇傾向になり、25年2月に90.2と20ヵ月ぶりの90台を記録。

 

その後25年3月以降12月までは、25年2月を山とする緩やかなダウントレンド内の動きをしており、80台で推移しています。日銀が目標とする2%の物価目標が実現すると皆が思い、「やや上昇」を選べば物価上昇判断DIは75.0程度に収斂するでしょう。しかし、まだ物価上昇への予想が強いようです。ただ、90台ではなく80台での推移なので、政府の物価対策などへの期待などもあり、物価上昇判断にやや落ち着きがみられるようになったと思われます。

 

出所:内閣府「消費者マインドアンケート調査」
[図表1]物価上昇判断DI 出所:内閣府「消費者マインドアンケート調査」
※「上昇する」から「低下する」までの5段階の回答を景気ウォッチャー調査と同様にDI作成した。

 

回答の内訳比率をみると、「上昇する」が25年12月は55.2%で11月の44.4%から上昇し、10月の55.0%に近い数字になりました。25年は、1月、3月、6~10月が50%台、2月と4~5月は60%台でした。11月に40%台に低下し、12月に50%台に戻りました。

 

出所:内閣府
[図表2]消費者マインドアンケート調査(試行):物価見通し(1年後)の集計結果推移 出所:内閣府
※一番右の欄の数字は、上が景気ウォッチャー調査と同様に加重平均して求めたDI。同じ欄の下の数字は、「上昇する」と「やや上昇する」の割合の単純合計。

4月の25.4を底にV字回復…暮らし向きDI39.4へ

25年12月の暮らし向き判断DIは39.4へと3ヵ月連続上昇。14ヵ月ぶりの水準に戻る。

 

暮らし向き判断DIは、25年5月は28.0と低水準ですが、25.4だった4月から2.6ポイント、3ヵ月ぶりの上昇に。6月30.4、7月33.6、8月は38.2と3ヵ月連続上昇で、24年12月の39.0以来の水準になりました。

 

しかし、9月は32.0へと5ヵ月ぶりに低下。20台になることはなく3月以降の30台は維持しています。10月35.0、11月37.7、12月は39.4へと3ヵ月連続上昇し、まだ30台ですが、24年10月39.4以来の水準に戻りました。

 

出所:内閣府「消費者マインドアンケート調査」
[図表3]暮らし向き判断DI 出所:内閣府「消費者マインドアンケート調査」
※「良くなる」から「悪くなる」までの5段階の回答を景気ウォッチャー調査と同様にDI作成した。

インフレ下でも暮らし向き改善…逆相関▲0.474へ縮小

25年12月調査は、物価見通し判断と暮らし向き判断の逆相関が弱まる。物価上昇見通しが強まっても、暮らし向き判断は改善。

 

消費者マインドアンケート調査の暮らし向き判断DIと物価上昇判断DIの相関係数は、16年9月から21年8月までの最初の5年間は0.01と無相関でした。しかし、21年9月から25年12月までの最近の4年4ヵ月間では▲0.665のマイナスで逆相関になっています。24年12月から25年11月までの1年間は、物価上昇判断DIが84以上の高水準に上昇で、暮らし向き判断DIは20台・30台の低水準である状況には変わりなく、物価見通し判断が暮らし向き判断の足枷になる状況が継続しています。

 

ただし、このところの相関係数の絶対値が縮小気味だったので、21年9月から25年11月までを2つの区間にわけてそれぞれの相関係数を求めました。21年9月から24年8月までの3年間では▲0.738と、物価見通し判断が高くなることで、暮らし向き判断が悪化する傾向が強かったことがわかります。一方、その後の24年9月から25年12月までの1年4ヵ月間の相関係数を求めると▲0.474と相関が弱くなっています。

 

出所:内閣府
[図表4]消費者マインドアンケート調査(最近4年4ヵ月間) 出所:内閣府

ガソリン150円台突入…補助金引き上げで6週連続値下がり、年末の暫定税率廃止が迫る

12月15日時点の全国のレギュラーガソリン平均価格は、159円70銭/l。150円台は約4年3ヵ月ぶり。

 

12月消費者マインドアンケート調査の回答期限は12月20日なので、全国のレギュラーガソリン平均価格の150円/l台への低下が反映されたと思われます。資源エネルギー庁が12月17日発表した、12月15日時点の全国のレギュラーガソリン平均価格は、前週より4円安い159円70銭/lでした。6週連続で値下がりし、2021年9月27日の158円70銭/l以来、約4年3ヵ月ぶりに150円台です。

 

石油元売りに対する政府の補助金が12月11日に暫定税率と同額の25円10銭に引き上げられたことが影響しました。暫定税率は12月31日で廃止され、政府の補助金も終了します。

 

出所:資源エネルギー庁
[図表5]2024年11月~2025年12月レギュラーガソリン前年比 出所:資源エネルギー庁

 

出所:資源エネルギー庁
[図表6]2024年11月~2025年12月レギュラーガソリン価格 出所:資源エネルギー庁

物価高の主役「米類・コーヒー豆」がついにピークアウト…漂いはじめた“落ち着き”の兆し

全国消費者物価指数で、米類とコーヒー豆の前年同月比はピークアウト。

 

11月の全国消費者物価指数で、これまで前年同月比が大きく上昇し、物価の上昇に寄与していた、米類とコーヒー豆は指数の上昇テンポが緩やかに。前年同月比はピークアウトしました。

 

出所:総務省
[図表7]全国消費者物価指数・前年同月比:コーヒー豆、米類 出所:総務省

 

全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合の前年同月比は10月の+3.0%に続き、11月も+3.0%で高めの伸び率が継続していますが、この1年間では5月の+3.7%がピークでやや落ち着いてきた感じがします。

 

出所:総務省
[図表8]全国消費者物価指数・前年同月比 出所:総務省

 

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

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