2025年のハワイ不動産市場:大きな波乱なく、成熟市場としての強さを示した1年
下のグラフ[図表1]は、過去2年間におけるオアフ島の不動産取引動向を比較したものです。緑色で示されている「Single Family Homes」は戸建住宅、黄色の「Condos」は日本人投資家の多くが選択するコンドミニアムやアパートメントの取引を表しています。
まず、全体の取引件数(Closed Sales)を見ると、戸建住宅は前年と比較してわずかに増加した一方、コンドミニアムは若干減少する結果となりました。金利水準が高止まりする中でも、戸建市場は一定の需要を維持していたことがうかがえます。
次に取引平均価格(Average Sales Price)では、戸建・コンドともに過去2年間で最も高い水準となりました。急激な価格上昇ではなく、緩やかに価格が積み上がるこの動きは、ハワイ不動産市場が持つ安定性を象徴していると言えるでしょう。
一方で、成約までに要した日数の中央値(Median Days on Market)は、戸建・コンドともに増加しました。特にコンド市場では、20日台から40日台へと大きく延びています。これは前章で触れたように、金利政策や為替動向を背景に、投資家が慎重姿勢を強めていたことの表れと考えられるでしょう。
物件在庫数(New Listings)も、戸建・コンドともに増加しました。特にコンド市場では例年比10〜30%程度在庫が増加しましたが、2025年後半からはやや減少傾向に転じています。現時点では、市場全体に大きな悪影響を及ぼす水準には至っていないと見られます。
全体として2025年は、慎重な動きが見られながらも、市場が持ち前の安定性を発揮し、不透明な経済環境の中でも大きく崩れることなく推移した1年でした。
富裕層向けとローカル支援が同時進行。二極化が鮮明になるハワイ新築開発の次なる局面
2025年のハワイ不動産市場を語るうえで、もう1つ重要なテーマが、ローカル居住者支援を目的とした住宅開発の動きです。ハワイではこれを「Affordable Housing(アフォーダブル・ハウジング)」と呼び、一定の所得水準に満たない地元住民に向けて、手頃な価格で住居を提供する取り組みが進められています。
近年では、こうしたアフォーダブル住宅開発と並行する形で、同じエリア内に超富裕層や外国人投資家を主なターゲットとした高級新築プロジェクトが計画・実行されるケースも増えています。この構図は市場の二極化をより鮮明なものとし、その傾向は2026年以降さらに加速していくと見られています。
ハワイ州や各自治体は慢性的な住宅不足への対応として、ローカル居住者向け住宅の供給を重要政策に位置づけています。アフォーダブル住宅や支援制度を伴う新築プロジェクトは行政主導で進められることが多く、土地利用や開発条件においても一定の優遇措置が取られる場面が増えています。
一方で、金利や為替といった短期的な外部環境の変化に左右されにくい、世界でもトップクラスの富裕層による需要は依然として強く、ハワイの住宅価格を押し上げ続けています。その結果、2025年は市場全体として安定を保ちながらも、住宅を取り巻く「買える層」と「買えない層」の差が、より明確になった1年だったと言えるでしょう。
2026年以降は、ハワイ州政府がこの二極化の課題に対してどのような支援策を打ち出していくのか、また開発会社がどこまでローカルコミュニティに寄り添った形でプロジェクトを進められるのかが、引き続き注目されるポイントとなりそうです。

