(※写真はイメージです/PIXTA)

ここ10年で、家族との距離感に対する意識は大きく変わりました。花王株式会社の生活者調査(My Kaoくらしラボ)では、「お互いに干渉しない家族がいい」と考える人が約7割にのぼり、特に女性で「自分のことを優先したい」という意識が高まっていることが明らかになっています。そうした価値観の変化を象徴するのが、都内で夫と2人暮らしをする牛久麻衣さん(40歳・仮名)です。共働きで世帯年収は約1,400万円。今年の年末年始、麻衣さんは「実家に帰らない」「お年玉を渡さない」という選択をしました。その背景には、家族との距離感を見直すに至った、ある出来事がありました。

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「今年の年末年始は、実家には帰らないつもりです」

 

そう話すのは、都内で夫(40歳)と2人暮らしをする会社員の牛久麻衣さん(40歳・仮名)。共働きで世帯年収は1,400万円ほど。2匹の猫と一緒に暮らしています。

 

これまで麻衣さんは、年が明けると埼玉の実家に顔を出し、兄の子どもたち——小学3年生の姪と、小学1年生の甥にお年玉を渡すのが恒例でした。夫の実家は両親が離婚しているのもあってほぼ没交渉です。

 

金額は、上の子に3,000円、下の子に1,000円。「形式として、なんとなく続けてきた習慣だった」といいます。

 

それでも今年、麻衣さんはその習慣を手放すことを決めました。

「自分たちの暮らしを優先したい」

麻衣さん夫婦には、子どもがいません。それは偶然ではなく、話し合った末の選択でした。

 

「実家は、両親の不仲を見ながら育った場所でした。その影響もあって、“家庭を持つこと”や“子どもを育てること”に、どうしても前向きになれなかったんです」

 

夫も同じ考えで、「不安定な時代に、無理に家族を増やさない」という価値観を共有しています。

 

その代わり、夫婦で大切にしているのが、今ある暮らしを丁寧に守ることでした。

 

「猫たちも含めて、今の生活がとても落ち着くんです。旅行に行くときは、猫のシッターさんをお願いしたり、環境が変わらないように気をつけたりしています」

 

麻衣さんにとって、それは“溺愛”というより、一緒に暮らす存在への責任でした。

心に残った、義姉の言葉

麻衣さんの気持ちを大きく変えたのは、今年の正月が終わったあと、義姉が兄に話していたという、ある言葉を母から聞いたことでした。

 

「旅行のときは猫のシッターを頼んだり、猫にはすごく気を遣ったりするのに、姪や甥にはあまり関心がないように見えるよね。夫婦共働きで年収は1,000万円を超えているはずなのにケチだよね」

 

その言葉を聞いたとき、麻衣さんは強い衝撃を受けたといいます。

 

もともと義姉はテイカー気質というか最初から他人に依存することが当たり前のような性格で麻衣さんが身につけているものを「それかわいいね、使わなくなったらちょうだい」と臆面もなく言ってくるタイプ。

 

そんな義姉だったので、言動には驚かなかったのですが、自分たちの大切にしているものが、理解されない距離にあることを突きつけられた気がしました。また、その言葉をそのまま麻衣さんに伝えてくる母親の無神経さにも腹が立ちました。

 

「この人は昔からこうだったな。だから家族という場所が私にとっては安心できる場所ではなかった。私は自分が選んだ人と自分らしい家族を作っていこう」と改めて心に決めた麻衣さん。

 

「私たちにとって猫は“家族”なんです。うちの価値観を押し付ける気はまったくないですが、あの言葉にはカチンときました」

 

「将来の期待」を背負わないために

さらに麻衣さんの中で引っかかったのは、“子どもがいない夫婦”に向けられる無言の期待でした。

 

「『子どもがいないんだから余裕があるでしょう』『将来、何かあったら頼れるでしょう』そう思われているかもしれない、という不安です。今でさえ、『母の日のプレゼントはどうする? うちは子供がいて余裕がないから多めに出してくれると嬉しい』なんて連絡してくる義姉です。まあ突っぱねていますが。今だってうちは出してばかりなのに、これからもアテにされるのかと思ったら今のうちにキッパリと線を引いておきたいんです」

 

麻衣さんにとって、子どもを持たない選択は、将来も含めて、自分たちで完結する人生を選ぶことでした。

 

だからこそ、曖昧な親戚づき合いを続けるより、今のうちに距離感を整えておきたいと思うようになったといいます。

 

年末が近づいたある日、母から電話がかかってきました。

 

「お正月は、帰ってくるの?」

 

麻衣さんは少し迷った末、「今年は家でゆっくりするね」と伝えました。母は心なしか寂しそうでしたが、深くは追及しませんでした。

 

「母は寂しそうだったけれど、自業自得です。罪悪感はまったくありません」

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