(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の「地方移住」。「自然の中でのんびり過ごしたい」「生活費を抑えたい」といった理由から、関心を寄せられています。しかし実際には、「思い描いていた理想の暮らし」と「現実」の間に、大きなギャップが存在するケースも少なくありません。今回は、年金と退職金をもとに地方の一軒家へ移住したある67歳夫婦と、その娘が体験した“予想外の展開”を通して、地方暮らしに潜む落とし穴を見つめます。

両親が直面していた“地方暮らし特有の困難”

亜紀さんの両親に何が起きていたのでしょうか。話を聞くうちに浮かび上がったのは、以下のような“地方暮らし特有の困難”でした。

 

●交通手段の乏しさ:最寄りのスーパーまでバスで40分、1日3便しかなく、買い物は重労働に。車の運転も高齢で不安が残る。

 

●医療アクセスの課題:持病のある母にとって、徒歩圏内に病院がないのは不安要素だった。

 

●人間関係の構築:地域のコミュニティに馴染むのが想像以上に難しく、孤立感が強まっていった。

 

●家屋の維持管理の負担:古い家は修繕が必要な箇所も多く、想定外の出費や労力が重なった。

 

実際、国土交通省『高齢者の住宅と生活環境に関する調査(2023年)』によれば、65歳以上の高齢者が現在の地域で「不便」と感じている内容としては、「日常の買い物」(23.9%)や「通院」(23.8%)に次いで、「交通機関の使いづらさ」(21.5%)が挙げられています。こうした不自由さが、日々の行動範囲を狭め、孤立や健康不安へとつながるケースも少なくありません。

娘が促した「現実的な選択」

「母が、ぽつりと『やっぱり東京が恋しいね』って言ったんです。父も否定しなかった。そこで、私は二人に“都内のシニア向け住宅に移らない?”と提案しました」

 

その後、両親は売却を前提に空き家バンクに登録し、都内のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居。現在は、年金の範囲内で生活を続けながら、以前より穏やかな表情を見せているといいます。

 

「地方暮らしを否定するつもりはありません。でも“体力・気力・社会とのつながり”が保てるうちに準備しておかないと、現実とのギャップに押しつぶされてしまうんだと思います」

 

定年後の地方移住は、生活コストの削減や自然豊かな環境でのんびり暮らすというメリットがあります。一方で、「老後の生活基盤」をどこに置くかは慎重に見極める必要があります。

 

厚生労働省も「地域包括ケアシステム」の推進に際し、「高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けるには、医療・介護・住まいの連携が不可欠」としています。

 

“第二の人生”を豊かに過ごすためには、夢に加えて現実的な準備もまた、欠かせないのかもしれません。

 

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