今回は、イギリスのEU離脱決定で日本企業が受けた「衝撃」について見ていきます。※本連載は、評論家・作家として活躍する宮崎正弘氏の著書、『世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、「世界大乱」とも言うべき状況のなか、国際社会の行方を占います。

冷戦終結以来の「国際政治の地殻変動」が起きている

欧米に反グローバリズムの波が嵐のように吹き荒れ、イギリスでUKIP、ドイツでは「ドイツのための選択肢」、フランスで「国民戦線」、イタリアで「5つ星運動」、オランダとデンマークでも保守党の躍進。

 

そしてポーランド、チェコ、ハンガリーなどでは保守政権が誕生し、ロシアと対峙するNATO(北大西洋条約機構)の先端に位置する橋頭堡(きょうとうほ)の役割を果たしている。

 

東西にはさまれ微妙な位置にいるトルコでは軍事クーデター未遂事件が突発し(2016年7月15日)、直後からエルドアン政権の「脱欧米」「イスラム回帰」が本格化した。

 

これは冷戦終結以来の国際政治の地殻変動である。未曾有の大波動、この地響き立てた変動に日本政府・外務省が気がつかなかったのだからよほど鈍いか、あるいは先入観がなせる業なのか。保守的な「産経新聞」までが「アベノミクスに暗雲」と書いた。

 

日本経済の先行きが暗くなり、イギリスのEU離脱は日本の「GDPを1%押し下げも」(「日本経済新聞」)という経済的側面からマイナス面だけを見ている論調である。

 

グリーンスパンの発言(「思い出すかぎり最悪」)が象徴するように、国際主義市場優先のグローバリストからは葬列を見送るようなメッセージが続いた。「長い不確定な時代の入り口」(マーティン・ウルフ、「フィナンシャルタイムズ」チーフエコノミクス・コメンテイター)、「英国は暗闇に飛び降りた」(「フィナンシャルタイムズ」社説)。日本でも「魔法の笛に踊らされた」(野上義二・元駐英大使)など。

イギリスポンドはユーロと1対1のレートになる?

実際に日本企業の受けた心理的衝撃は甚大な規模におよぶようだ。イギリスに進出した日本企業は1100社以上もあり、とりわけ目立つのは自動車産業でトヨタ、日産、ホンダと勢ぞろい。イギリス国内市場ばかりかEU市場全体をねらった。

 

保護主義が強く進出が難しかったフランスや日本車を避けるドイツなどと違って、サッチャー政権が熱心に日本企業を招聘した結果である。しかもEU域内は関税がない。だから自動車メーカーはこぞってイギリスに工場を建設し、現地雇用を拡大してイギリス経済に貢献もした。

 

イギリスがEUから出るとなると、自動車輸出は10%の関税が課せられ、壊滅的打撃を受けると懸念する声が強かった。

 

しかし、イギリスポンドがユーロ以上に激しく下落し、いずれユーロとは1対1のレートになるのではないのか。関税の壁には直面しても、ポンド安は対ユーロレートが安くなるわけだから競争力は維持できる。実際にポンド安でロンドンの不動産爆買いが再開され、中国から膨大な投機資金が流入している。

 

 

イギリスで不動産開発を展開しているのは三井物産、三菱地所、三井不動産など大手だが、なかでも三井不動産はBBC跡地に複合ビルなどを開発している。

 

ほかに銀行、証券、保険など金融産業は、ロンドンのシティ集中をフランクフルトやアムステルダムなどに分散する傾向がある。パリやルクセンブルクを拠点化しようとする金融機関もある。

 

データサービスの拠点をイギリスに置く企業も、データ保護などでEU規制があるため影響が出るといわれる。港湾荷役や海運なども運搬量の減少などで、売り上げに悪影響が出ると懸念の声があがった。

 

いずれにしても脱退交渉はテリーザ・メイ新首相のもと、2016年末から開始されるのだ。そのうえ最短で2年、最長7年の交渉過程が今後に控えている。あわてるには早すぎるのである。現に、7月10日の参議院選挙での自民党の大勝を受けて、日本の株式は急回復し、円高も一服した。

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