今回は、なぜイギリスの「EU残留派」は国民投票で敗北したのか、その理由を探っていきます。※本連載は、評論家・作家として活躍する宮崎正弘氏の著書、『世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、「世界大乱」とも言うべき状況のなか、国際社会の行方を占います。

グローバリズムへの嫌気、主権回復、移民問題・・・

イギリスのEU残留派の敗因は何か。もうすこし具体的に見ておこう。

 

第1に、UKIPの大躍進が続いていたことがある。つまりEUに残留して主権を希釈化され、イギリスの伝統文化などアイデンティティ喪失を恐れるブリテン・ナショナリズムがこの第3党を躍進させ、はやりのグローバリズムの蔓延に嫌気した国民の心理をうまく衝いたことにある。日本はまだグローバリズムの魔法にかかった人が多いから、この点で国際情勢に周回遅れとなっている。

 

第2に、離脱組が最大の問題としたのは「主権」の回復にあったことだ。EUの規則に拘束され、イギリスの主権が台無しにされていることへの懸念が拡がった。とくに都会の若者に、この傾向が顕著に出た。

 

第3が、労働者から職を奪ったと喧伝された移民問題である。もともとイギリスは旧植民地から移民を大量に受け入れてきた。とりわけインド・パキスタン、香港、ナイジェリアからの移民は「3大ファミリー」であり、ここへ近年は中国から、そしてEUの規則に従って東欧から技術者やインテリが大量に雪崩れ込み、イギリス人の職を奪った。

 

2004年にポーランドが嚆矢となって東欧からの移民が急増し、年間30万人がイギリスに移住した。学校、公園、公共施設、公会堂、福祉、生活保護。あらゆる社会の末端が移民だらけとなり、イギリスの人口6400万名のうち、じつに850万名が移民となったのだ。これは全人口の13.3%にあたる。

 

第4は、テロリズムがもたらしたイスラム過激派という暗い影への不安だが、これは論じるまでもない。

輸出と輸入の依存度の不均衡も要因のひとつに

一方の残留派の反論は、経済的に大変な事態になりかねないというものであったが、これには矛盾が目立った。

 

イギリスの製造業の労働人口は8%で、大半はアメリカ同様にサービス産業、とくに国際金融に依存する経済構造であり、イギリスからEUへの輸出依存度は45〜50%だが、輸入依存度は16%でしかなく、EU企業の60%がイギリスに営業拠点を置いている。したがって、国際金融および輸出中心の産業構造が重要と見れば、EU離脱は中間層にとっても痛いことになる。

 

つまりEU残留でイギリスが享受できるメリットとは一部に言われたように、エリート、富裕層だけでなく、中間層も期待するところがあった。

 

イギリスはユーロに加わっていないが、ユーロの前身であるERM(欧州為替相場メカニズム)にイギリスが加わった結果、30億ポンドの為替差損が生じた。このとき、ポンド安に投機したジョージ・ソロスは個人でも10億ポンドを儲けた。

 

サッチャー首相(当時)はこの事態を踏まえて、ユーロには加わらなかった。独立国家としての通貨主権を断固として護ったのだ。

世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変

世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変

宮崎 正弘

徳間書店

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