生産効率が極限まで上がった結果、利益が枯渇
前回出てきたキーワード、限界費用ゼロと聞いて、同名のビジネス書を思い出した方もいるでしょう。この本のタイトルは「限界費用ゼロ社会―<モノのインターネット>と共有型経済の台頭」というもので、大変な良書です。著者のジェレミー・リフキンは「第三次産業革命」や「エントロビーの法則」などでも有名な文明評論家です。限界費用ゼロという本の中で、彼は「IoT(モノのインターネット)によりコミュニケーション、エネルギー、輸送の効率性や生産性を極限まで高める。それによりモノやサービスを1つ追加で生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づき、将来モノやサービスが無料になれば資本主義は終焉に向かう。」と言っています。
そして資本主義に続いて、「代わりに台頭しつつある共有型経済では、人々が協働してモノやサービスを生産し、共有(シェア)し、管理する新しい社会を実現する。」というシェアリングエコノミーが台頭すると言っています。
ここで重要な示唆は、限界費用が小さくなるとシェアリングコストが下がるということです。みんなで分かち合うのに負担がなくなってくるということです。これは一方で、配布するための費用から投資を回収してきた資本主義が、シェリングエコノミーに勝てなくなってくるということを示唆しています。
逆にアセット(設備費用)の割合が大きくなるので、それを共有しようとする経済が生まれてくるということです。
ジェレミー・リフキンは前出の「限界費用ゼロ社会」で、社会の経済生活を形作る財やサービスの多くが次第に限界費用ほぼゼロに向かってじりじりと進み、資本主義の命脈とも言える利益が枯渇する様を精緻に描き出しています。
これはある意味では、資本主義が目指した生産の効率性が極限まで上がったことを意味しています。資本主義が成功するということは、その結果として、資本主義が崩壊することを意味しているのです。
アセットをシェアし、限界費用ゼロで運営するAirBnB
彼は次の半世紀の間に資本主義は縮小し、経済生活を構成する主要なモデルとして協働型コモンズが台頭してくると明言しています。協働型コモンズとは目的を共通にしたボランタリーな集団を意味し、生活協同組合や慈善団体、宗教団体、信用組合など無数の機関が含まれます。しかし、今までのような団体とは異なり、これからの協働型コモンズはインターネットを駆使した大規模な組織となってくるでしょう。
もうちょっと具体的な例で言いましょう。
たとえば今流行の「AirBnB(エアービーアンドビー)」を例にとりましょう。初めて聞く方もいるかもしれません。「民泊」というと分かる方もいるでしょうか?
これはインターネットを使って、個人の自宅をホテル代わりに予約し、宿泊し、清算するという新しいビジネスモデルです。個人と宿泊客のコミュニケーションが生まれたりして大変評判がよいものです。
出張などで海外に行くときにうまくホテルが取れないとか、もう少し安く宿泊したいとか、あるいは仕事だけではなく現地の人とふれあいたいというようなニーズがあります。一方で、自宅に空き部屋があり、稼ぎになり、信頼できる人が宿泊するということなら部屋を提供してもよいというシーズがあります。
2008年に創業したAirBnBは個人が持つ空き部屋や空いている時間を利用して、ホテルの代わりに会員を宿泊させるビジネスモデルです。
世界ではこれまでに300万人もの顧客を得て、192カ国3万3000都市で1000万泊の予約を成立させています。
従来の資本主義モデルでは、ホテルを建設し、すべての投資金額を宿泊費から回収するというモデルだったわけですが、季節変動や景気動向などに大きく左右される不安定なビジネスモデルでした。しかし、今までは競争があるといっても、競争相手は同じホテル業界であり、気心が知れた仲間でした。
そこに想像もしていなかった競争相手が生まれたのです。AirBnBでは、個人が保有している住宅がアセットになります。一泊にかかる限界費用はゼロです。従来は予約システム、済システムなどのシステム構築に多額の費用がかかっていたのですが、インターネットがこれをただ同然にしてしまいました。AirBnBはホテルシステムを破壊することはないでしょうが、ホテルに対する新たな投資意欲は減退して行くことでしょう。