今回は、近年注目をされる「限界費用ゼロ社会」という概念から、再生可能エネルギーのもつポテンシャルと課題を見ていきます。※本連載は、東京大学大学院の技術経営戦略学専攻特任教授である阿部力也氏の著書、『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、電力自由化・インターネット化で大きな転機を迎えている、電力業界の実情を見ていきます。

限界費用がゼロの風力・太陽光・潮流・地熱・水力発電

電力ビジネスは、巨大発電所と送配電線を建設し、すべての投資金額を電気料金から回収するというモデルでした。季節変動や景気動向などにも左右されますが、エネルギーは国の重要なインフラであるということで保護され、安定的な収入が確保できました。電力自由化が起きても競争相手は新電力で、同じ電力仲間です。

 

ところが、これから生まれて来そうな新しい競争相手は全く別の次元のものとなりそうです。

 

経済学では、追加生産1単位当たりの追加コストを限界費用といいます。ここでは燃料代相当費用と限界費用は同じと思っていただいて結構です。

 

太陽光発電や風力発電はこの限界費用がほとんどゼロです。

 

再エネのような限界費用ゼロの電源が、アセットとして個人や事業者などに保有されるようになります。発電にかかる限界費用はゼロです。電力買い付けの予約システム(先物)や決済システムは、デジタルグリッドルーター(DGR)を使えば、ただ同然になってしまいます。

 

バイオマスと言われる間伐材や木材チップ、籾殻などによる発電は、燃料となる原材料を収集したり購入したりするコストがかかりますので限界費用ゼロではありません。

 

バイオガスといわれる生ごみや下水汚泥、家畜糞尿などをガス化して発電する方式は、原材料収集コストは別な財源に頼ることができますが、ガス化に関連するコストはある程度かかりますので、限界費用ゼロではありません。

 

しかし、風力発電や太陽光発電、潮流発電、地熱発電、水力発電などは限界費用ゼロの電源です。

限界費用ゼロの電源が優先的に発電されるべきだが・・・

限界費用ゼロの電源は、エネルギーの世界を根底から覆すことになります。電力会社では複数の発電機を同時に発電して、需要に見合った発電電力を確保します。このとき、どの発電機から順番に発電させて行くかということについては、メリットオーダーというルールがあります。

 

メリットオーダーとは、燃料費の安い順番から発電させて行くというルールです。

 

考えてみれば当たり前で、発電機の固定費は運転してもしなくても発生するので、無視していいのです。発電すればするほど発生する従量費用はできるだけ抑えたいものです。従量費用の代表は燃料代です。それ以外に直接人件費や補修費などがあります。

 

ということは、メリットオーダーのルールに従えば、この限界費用ゼロの発電方式は最も優先的に発電させるべきものになります。欧州では再エネの優先接続が法的に義務付けられているくらいです。

 

現在の日本では、技術的な課題のためにこの2つの発電方式は真っ先に出力抑制をかけられることとなっていますが、デジタルグリッドでは、最も優先的に発電する電源に変貌するでしょう。その時、電力システムとそのビジネスモデルはどのように変化していくのでしょう。

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