今回は、太陽光や風力発電が持つポテンシャルについて考えてみます。※本連載は、東京大学大学院の技術経営戦略学専攻特任教授である阿部力也氏の著書、『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、電力自由化・インターネット化で大きな転機を迎えている、電力業界の実情を見ていきます。

太陽光発電による電力供給のポテンシャルは莫大

大半の需要家が住んでいる地域は地方にあり、そこには自然エネルギーがふんだんにあります。

 

独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)のまとめた再生可能エネルギー技術白書第2版によれば、太陽光発電の導入ポテンシャルは、2011年に経済産業省が戸建て住宅と集合住宅の導入ポテンシャルとして91ギガワット(9100万キロワット)という試算をしているということが報告されています。

 

また2011年に環境省が行った試算では、設置可能な公共型の建物や未利用地耕作放棄地などを利用した場合、150ギガワット(1億5000万キロワット)というポテンシャルがあるとの試算を出していることも書かれています。

 

そしてNEDO自身が行った2012年の導入ポテンシャル調査結果では、耕作地全面積の10%に導入した場合で、約380ギガワット(3億8000万キロワット)もの導入ポテンシャルがあるとしています。

 

これは日本の最大需要1億6000万キロワットの2.3倍にもなります。

規制緩和で可能になった、農地での太陽光発電

このような導入ポテンシャルが生まれたのは規制緩和の効果です。

 

農林水産省が平成25年4月1日に「支柱を立てて営農継続する太陽光発電設備などについての農地転用許可制度上の取り扱いについて」という文書を公表して、条件付きではありますが、耕作地の利用が可能になりました。

 

この条件は原則として3年間という限定期間での運用しか認めておらず、3年後に改めて一部転用許可を行うというもので、事業者としては長期計画が立てにくいのですが、それでもこの規制緩和の効果は大変大きいものがあります。

太陽光発電だけで日本の電力の半分を供給できる可能性

太陽光発電設備の設備利用率を12パーセントとすると、年間1050時間、定格出力で発電できていることになります。太陽光発電は午前中の発電量は少なく徐々に増えていき、午後2時ごろ日射量が最も大きくなり、定格発電ができますが、夕方にはまた少なくなります。また、曇りの日など発電できない日もあります。これらを平均すると、定格出力で運転できる時間は、年間8760時間中の12パーセント程度というような表現ができます。これを設備利用率といいます。

 

仮に設備利用率12パーセントとすると、3億8000万キロワットの太陽光発電設備から約4000億キロワットアワーの電力量が生み出されることになります。日本の年間消費電力量は約8000億キロワットアワーですので、太陽光だけで日本の電力量の約半分をまかなう可能性があるということになります。

 

もちろんこれは昼間の太陽の照っている時間帯だけに限りますし、太陽だけでは不安定ですから、火力発電所等のバックアップが必要です。しかし、エネルギー源として大きなポテンシャルがあると言えるでしょう。

太陽光発電よりも設備利用率が高い風力発電

風力について、やはり同じNEDOの再生可能エネルギー白書によれば、経済産業省の試算として陸上風力の導入ポテンシャルが2億9000万キロワットと紹介しています。環境省の試算でも2億8000万キロワットとなっています。両省の試算結果は、陸上風力が日本の最大需要の1.8倍程度の導入ポテンシャルを持っていると見ています。風力発電は設備利用率が太陽光発電よりも高いので、陸上風力だけで、日本の電力量の約半分以上をまかなう可能性があります。

 

風力発電の設備利用率は20~30パーセントあります。仮に25パーセントとすると、年間2190時間、定格出力で発電できることになりますが、風力は故障も多いので、稼働率を95パーセントとして2080時間発電時間があるとしましょう。環境省の試算をとって陸上風力が2億8000万キロワット導入可能だとすると、そこから生まれる電力量は5824億キロワットアワーになります。これは日本の消費電力量の73パーセント近くにあたります。

 

経済性を加味した導入可能量については、固定価格買い取り制度の買い取り価格(FIT)試算値も紹介されています。

 

経済産業省の試算では、20円/キロワットアワーで15年買い取りの場合は1億キロワット、20年買い取りの場合は1億1000万キロワットの導入が促進されるだろうという結果となっています。

 

環境省の試算では、同じFIT価格で20年買い取りの場合、1億4000万キロワットの導入が進むとされています。

 

経済性を見込んだ導入量として、経済産業省の試算を取って、1億1000万キロワットが導入された場合、発電電力量は2288億キロワットアワーとなります。

 

これでも日本の消費電力量約8000億キロワットアワーの30パーセント弱に当ります。風力の場合、発電は昼間帯に限りませんので、朝、夕および夜間電力の一部もまかなうことができます。

発電ができない時間帯は代替発電を動かして柔軟に対応

設備価格が低下し、機器の仕様、工事方法、設置場所等に関する様々な規制が少なくなればなるほど導入が進み、導入が進むと価格が下がるという、よい循環が起きます。このように、地方のセルは再エネによるエネルギー供給のポテンシャルは非常に高いのです。地方のセルが自立するためには、太陽光や風力に加えて、これらが発電できない時間帯の代替発電を組み合わせることがとても重要です。それが柔軟にできる新しい電力システムを構築していかなければなりません。

 

これができれば、近い将来、日本は自然エネルギーの宝庫であるということが実感できるようになってくるでしょう。

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