(※写真はイメージです/PIXTA)

相続税を減らすために「家族を増やす」。一見すると本末転倒にも思える方法だが、近年、養子縁組を用いた相続税対策が富裕層を中心に注目を集めている。法定相続人を増やすことで基礎控除が拡大し、相続税率を引き下げられる可能性がある一方で、家族関係を揺るがす「争族」リスクや、税務署による否認という現実的な問題も無視できない。養子縁組が相続税対策として注目される理由から、具体的な税額試算、さらに税務署に否認された実例までを整理し、養子縁組を相続対策として用いる際の注意点を検証する。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

養子縁組が相続税対策として注目される理由

相続税対策の本質は、家族にできるだけ多くの財産を残すことである。その手段の一つとして、法定相続人を増やす養子縁組が利用されてきた。

 

養子縁組には、次のような効果がある。

 

●相続税の基礎控除が増える

●法定相続人が増えることで、1人当たりの取得額が減り、適用税率が下がる可能性がある

●孫養子の場合、世代を1つ飛ばすことで相続税の課税回数を減らせる

 

加えて、「特定の相手に確実に財産を承継させられる」という点も、資産家にとって大きな魅力となっている。

有名人の事例が示す、養子縁組のインパクト

実例として知られるのが、俳優・高倉健氏のケースである。同氏は亡くなる約1年半前、長年身の回りの世話をしていた33歳年下の女性を養子とし、推定40億円規模とされる遺産の大半を相続させた。配偶者や子がいなかったため、本来は妹が相続人となるはずだったが、養子縁組によって相続構造は一変した。

 

また北野武氏は、孫を養子とすることで「子から孫への相続」を1回飛ばし、基礎控除や非課税枠を最大限活用したと報じられている。

 

これらの事例は、養子縁組が相続の帰結を大きく左右し得ることを端的に示している。

孫養子は本当に得なのか?…数字で検証

孫養子の是非は、理念や印象論ではなく、最終的には数字で判断するしかない。ここでは、実務で典型的なモデルケースを用い、養子縁組の有無による相続税額の差を具体的に検証する。

 

モデルケースの前提

 

被相続人:祖父

相続財産総額:1億円(不動産・金融資産合計)

債務・葬式費用:なし(簡便化)

配偶者:なし

実子:1人

 

比較は次の2ケースで行う。

 

ケース①:養子縁組なし(子1人)

ケース②:孫1人を養子にする(子+孫養子)

 

ケース①:養子縁組なし(子1人)

法定相続人は子1人である。基礎控除額は以下の通り。

 

3,000万円 + 600万円 × 1人 = 3,600万円

 

相続財産1億円から基礎控除3,600万円を差し引くと、課税遺産総額は6,400万円となる。法定相続分は100%であるため、全額を子が取得する。

 

6,400万円は税率表上「5,000万円超~1億円以下」に該当し、税率30%、控除額700万円が適用される。

 

6,400万円 × 30% - 700万円 = 1,220万円

 

相続税額は1,220万円となる。

 

ケース②:孫1人を養子にした場合(子+孫養子)

実子がいるため、法定相続人に算入できる養子は1人までである。本ケースでは、子1人と孫養子1人の計2人が法定相続人となる。基礎控除額は以下の通り。

 

3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円

 

相続財産1億円からこれを差し引くと、課税遺産総額は5,800万円となる。

 

法定相続分は子と孫養子がそれぞれ2分の1であり、取得額は各2,900万円となる。

 

2,900万円は「1,000万円超~3,000万円以下」の税率区分に該当し、税率15%、控除額50万円が適用される。

 

2,900万円 × 15% - 50万円 = 385万円

 

子の相続税額は385万円である。

 

一方、孫養子も一次計算では同額となるが、孫養子は相続税法上「一親等の血族」ではないため、算出税額に20%の加算が行われる。

 

385万円 × 20% = 77万円

 

したがって、孫養子の最終的な相続税額は462万円となる。両者を合算すると、相続税総額は847万円となる。

 

両ケースの比較

養子縁組なしの場合の相続税総額は1,220万円、孫養子を用いた場合は847万円であり、その差は373万円となる。数字上は、孫養子による節税効果が明確に確認できる。

数字が示す注意点

ただし、この結果は「孫養子が常に有利である」ことを意味しないようだ。

 

第1に、財産規模が小さい場合の逆転リスクである。課税遺産が7,000万~8,000万円程度にとどまるケースでは、基礎控除増加の効果よりも孫養子への2割加算の影響が相対的に大きくなり、節税効果がほぼ消える、あるいは税額が増えることもある。

 

第2に、遺産分割による税額変動である。孫養子に多くの財産を配分すると、2割加算が重くのしかかり、相続税総額が膨らむ可能性が高い。

 

第3に、資産構成の影響である。不動産比率が高く評価圧縮が効く場合は効果が拡大しやすい一方、現金・有価証券中心の資産では、期待したほどの節税にならないことも珍しくない。

孫養子と2割加算の壁

孫を養子にした場合、法定相続人にはなるが、相続税法上は一親等の血族ではない。そのため、算出された相続税額に20%が上乗せされる「2割加算」が適用される。

 

遺産規模によっては、基礎控除増加による節税効果よりも、2割加算による増税の方が大きくなることもあり、事前の詳細な試算は不可欠である。

節税効果を数字で見る…「3億円モデル」と「5億円モデル」

法定相続人が1人増えると、

 

基礎控除:600万円

生命保険金非課税枠:500万円

死亡退職金非課税枠:500万円

 

合計で1,600万円分の課税財産を圧縮できる。

 

3億円モデル

相続財産3億円、法定相続人2人の場合、基礎控除は4,200万円で課税対象は約2億5,800万円となる。ここに養子1人を加えると基礎控除は4,800万円となり、課税対象は約2億5,200万円に減少する。税率区分の変動も含めると、数百万円規模の税負担軽減が生じる。

 

5億円モデル

相続財産5億円規模になると、養子縁組による控除増加と税率低下が重なり、1,000万円を超える節税につながるケースも珍しくない。

不動産・生命保険を絡めた場合の注意点

不動産が多い場合、相続税評価額は時価より低くなるため有利に働く。一方で、養子縁組と不動産取得、生命保険加入を短期間に集中させると、税務署は一連の行為を「相続税対策のパッケージ」として捉える傾向が強い。

 

特に、養子縁組直後の高額な生命保険加入は、調査対象となりやすい。節税効果が高いほど、税務調査で厳しく検証されることを忘れてはならない。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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