節税対策のポイントは「同居」と「不動産の評価減」
提示したシミュレーションでは、対策をすることで相続税が 半分以下にまで減らせる 可能性が見えてきました。順に解説します。
①自宅に健太郎さんが同居すると評価額が80%下がる(小規模宅地等の特例)
今回最大の節税効果になるのが特例を適用することです。小規模宅地等の特例(同居特例)──自宅の土地の評価が 80%減。
自宅土地(約7,475万円)は、なんと 約1,475万円 まで評価が下がります。節税効果はおよそ 2,400万円。
つまり、同居するだけで相続税が半分近く減る、という非常に効果的な制度です。
同居するための現実的な方法
・3階をリフォームして健太郎さん夫婦が住めるようにする
これにより、
②母親の見守りが可能
③相続税が大幅減
という “三方よし” の状態になります。
②アパート(貸付不動産)は50%評価減の対象
健太郎さんの母親は都内の別の場所に8世帯の賃貸アパートをお持ちです。
貸付不動産は「貸付宅地特例」の対象となり、土地評価が50%減。
約8,000万円 → 約4,000万円へ評価減。
建物も「固定資産税評価」がベースになるため、市場価格よりかなり低くなります。
③工場用地も評価減
地方の工場用地は借地権割合などを考慮すると、実勢価格より評価が下がりやすい資産です。今回の試算では、約3,100万円 → 約1,860万円という大幅な圧縮が可能と見込まれます。
④預貯金は“不動産への資産組み替え”で評価減に
預金3,000万円は、そのままだと 3,000万円のまま評価されます。
しかし、
・相続税対策になる不動産
・収益を生む不動産
へ組み換えると評価が大きく下がります。
さらに、年金不安のあるご家庭では「老後資金確保」の意味でも重要です。
節税後の財産総額は約1億1,000万円
ここまでの特例を適用した結果がこちらです。
| 資産区分 | 特例前 | 特例後 |
|---|---|---|
| 自宅(土地+建物) | 約8,475万円 | 約1,475万円 |
| 賃貸アパート | 約9,500万円 | 約4,750万円 |
| 地方の土地・建物 | 約3,100万円 | 約1,860万円 |
| 預貯金+保険 | 約4,000万円 | 約3,000万円 |
| 合計 | 約2億2,900万円 | 約1億1,000万円 |
約1億円の評価減に成功。相続税はおおよそ半分程度まで下がる見込みとなります。
さらに重要なのは「遺言書」
資産が整理できたら、次に必要なのが公正証書遺言の作成です。
特に今回は…
・長男には生活資金が十分ある
・健太郎さんに多めに遺す理由も明確
という背景があるため、公平性の説明 をしっかり文面に残しておくことがとても大切です。
今後のアクションプラン(時系列)
対策は段階的に行うことが大切です。今回のご家庭の場合、以下の流れが最もスムーズです。
【〜数ヶ月以内】
・家族会議 → 健太郎さん同居の可否を決定
・母親の意思確認
・遺言の方針を確定
【半年以内】
・公正証書遺言の作成
・自宅3階のリフォーム計画
・不動産や預金の配分確認
【1年以内】
・正式な財産評価書の作成
(精密評価により60万円前後)
【継続的に】
・不動産の見直し
・税制改正への対応
・毎年の現金・保険の管理
相続実務士が見た今回の“成功ポイント”
今回の健太郎さんのケースは、節税の余地が非常に大きく、対策をすれば相続税が劇的に変わる典型例でした。特に重要だったのは以下の3点です。
同居できる家族がいるだけで節税額は数千万円単位で変わります。
② アパート・工場用地など“不動産が多い”
不動産は評価を下げる余地が大きく、節税の中心になります。
③ 母親の意思が明確
「健太郎さんに多く遺したい」とはっきりされていたため、遺言の方向性が見えやすい。
健太郎さんは方向性が見えたので、早急にお母さん、お兄さんと話をするということです。
相続は“早く取り組んだ人が勝つ”
今回の健太郎さんのように、
・親が80歳前後
・不動産を複数所有
・兄弟間の公平性に課題がある
というご家庭は非常に多く、相続対策が“遅れると損をする”典型でもあります。特に同居特例は「いつ同居を始めたか」が極めて重要 です。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
