通帳記帳をすると、見慣れない「+10,000,000円」の文字が…
「最初はゼロの数を間違えたと思いました。何度見直しても、やっぱり1,000万円って表示されていて……」
そう語るのは、都内在住の山村英一さん(仮名・65歳)。英一さんと妻の美佐子さん(同・64歳)は、年金月22万円で慎ましく暮らすご夫婦です。ある日、美佐子さんがいつものようにATMで通帳記帳をしたところ、見慣れない「+10,000,000円」の文字が――。
「送金元の名義は、父の郷里でお世話になった不動産会社でした。それで、ふと思い出したんです。昔、父が相続したまま放置していた山林があったって……」
その1,000万円は、夫・英一さんが若い頃に相続していた地方の土地が、最近になって不動産業者に売却され、その代金が振り込まれたものだったのです。
「すっかり忘れていました。祖父から相続した土地で、山のふもとの何もない原野だったから、誰も使わず放置していて…。まさか買い手がつくなんて思ってもみなかった」
自治体の都市計画でその周辺地域が開発されることになり、隣接地を買収していた不動産会社から買取りの打診があったとのこと。土地の名義変更と売却手続きは、司法書士と不動産会社が代行。振込前に不在票が届いていたものの、重要性に気づかず放置していたのが混乱の原因でした。
今回のように、相続した不動産を使わずに放置していたというケースは、全国に少なくありません。国土交通省の地籍調査(2020年度)によると、所有者不明土地の割合は24.0%にも達します。
また、相続時に登記手続きをしなかったことで、名義が古いままになっている土地も多く、2024年4月からは相続登記の義務化がスタートしました。今後、登記や管理を怠ったままでは、行政指導や過料の対象となる可能性もあります。
