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ひとり孤立した父の最期
母が亡くなったあと、父がどのように暮らしていたのかはわかりません。連絡は再び途絶え、5年の月日が流れました。
父が75歳になったある日、一本の電話が入りました。警察署からでした。
「お父様が、ご自宅で亡くなっていました」
孤独死でした。身元確認のために警察署へ向かい、話を聞くと、実家のポストに郵便物が手つかずになっていたのを不審に思った配達員が通報したとのこと。死因は心筋梗塞でした。
葬儀等を済ませ、遺品整理のために実家を訪れました。23歳で家を出て以来、実家に足を踏み入れたのは母の葬儀のときだけ。それから5年ぶりの訪問です。
実家は、庭の手入れもままならず、まるで空き家のようでした。家の中に入ると、部屋のいたるところが散らかり放題。母が生きていた頃の整理整頓された面影は跡形もなく消え去り、そこには「生活の荒廃」だけが残っていました。
母が亡くなってひとりになった父は、いったいどんな生活をしていたのだろうか……。
遺品整理で見つけた「泥だらけの1万円札」
遺品整理をするなかで、Aさんはあるものを見つけて言葉を失いました。居間のテーブルいっぱいに、Aさんが母に送っていた「孫の写真」が広げられていたのです。
絶縁していた父ですが、ひとりきりの部屋で、孫の写真を眺めながら生活していたようです。遺言書はありませんでした。いまとなっては父の言葉を聞くことはできませんが、そこには確かな「祖父としての時間」がありました。
辺りを見渡すと、居間のソファに脱ぎ捨てられていた、ボロボロの作業着が目につきました。土建会社に勤めていた父が現役時代に着ていたものでしょうか。そのポケットから、泥だらけになった1万円札が出てきたのです。
あとでわかったことですが、父の晩年はひとりで近所の居酒屋に立ち寄ることが多かったそうです。居酒屋の店主によると、父はいつもその作業着姿で現れ、嬉しそうに孫の話をしていたといいます。
余計なお金は持たず、ポケットに1万円札だけ忍ばせて飲みにいっていた父。泥だらけの紙幣は、亡くなる直前に飲みに行った帰りに転んでついたものなのか、あるいは意識を失ったときに握りしめていたものなのか……。「頑固オヤジ」の孤独で不器用な晩年が、その1万円札に凝縮されているようでした。

