今回は、電力会社にとって、大きな競合相手となっている自家発電の拡大がもたらすインパクトについてお伝えをします。※本連載は、東京大学大学院の技術経営戦略学専攻特任教授である阿部力也氏の著書、『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、電力自由化・インターネット化で大きな転機を迎えている、電力業界の実情を見ていきます。

供給能力が過剰でも、競争原理が働かない・・・

電力自由化の対象が2016年の4月からすべての需要家に拡大されました。これは凄いことになった、電力の世界は激変するのだろうか、と思われる方も多いでしょう。これはある意味ではその通りと言うこともできますし、またある意味ではそうでもないと言うこともできます。

 

資源エネルギー庁がインターネットで公開している資料を見てみると、日本には単純合計で2億6547万キロワットの発電設備が存在しています。

 

日本の最大需要は1億6000万キロワット程度ですので、それよりも1億キロワットも多い発電設備が既に存在してしまっているということになります。15%くらいの予備力が必要と言われますが、この状態は40%くらいの予備力に相当しています。

 

これは明らかに過当競争です。

 

純粋な意味での自由競争市場であれば、これらの設備は淘汰されていき、数多くの会社が倒産したり、吸収合併されたりしていくことが予想されます。

 

しかし、必ずしもそうなるとは限りません。なぜならば、ほんとうの自由競争市場にはなっていないからです。

 

たくさんの電力会社が新しく誕生しましたが、それらは従来の電力会社を小さく分けた程度の変化しか生み出していないようです。どの会社のホームページを見ても、自分達で発電所を運営し、安くて信頼性のおける電源をお客様に供給しますというような説明になっています。これでは従来の電力会社のサービスと何ら変わりません。

 

すべての新電力が、既存の電力会社の送配電網を使って、そこに接続された顧客に電気を送り届けるというサービスなのですから変えようがないのです。

 

ある意味で、みな「仲良しクラブ」にならざるを得ないのです。

 

従って、それほど大きな激震が起こるとは思えません。

自家発電の拡大こそが、電気事業に大転換をもたらす

本当の激震の震源は別のところにあります。

 

現在の電力業界がカウントしていない潜在的な競争相手がいます。レストランの例えで言えば、それは「家庭料理」の存在です。

 

つまり、自家発の存在なのです。

 

1発電所の最大出力が1000キロワット以上のものだけを集めた統計資料によると、自家発の増加は下記の表のようになっています。

10年間で自家発は、2100万キロワットも増え、火力発電所は1.3倍に、水力発電所は2.5倍に増えました。新エネは量はまだ火力の20パーセント程度しかありませんが、9倍に増加しています。自家発は発生している電力のほとんどを自家消費しています。近年最大電力も減り、電力消費量も年々少なくなってきていますが、その理由の1つに、自家発の増大があるのかもしれません。

 

そうだとすると、日本の最大需要が本当はいくらなのか分からなくなってしまいます。電力会社の発電の最大実績は約1億6000万キロワットですが、そのとき自家発6000万キロワットが運転していたとすれば、実際には2億2000万キロワットの需要があったと考えるべきかもしれません。

 

この自家発統計は1000キロワット以上の発電機を対象にしていますが、それ以下の自家発もかなりの量があると推定されます。

 

家庭の屋根についている太陽光発電はその一つです。エネファームのような家庭用燃料電池発電もそうです。工場の自家用ディーゼル発電機やガスエンジン発電機もそうです。これらはまだ大きな数字になって現れていません。

 

しかし、自由化されたばかりの低圧電力市場の消費者が自家発を持ったら、どのくらいのインパクトがあるのでしょう?

 

低圧市場の契約件数は約8000万件ありますので、単純計算で各消費者が2キロワットの自家発を行えば、日本の全電力需要1億6000万キロワット全量をまかなえることになります。

 

このように、自家発の増大による電力システムの変革とそのビジネスモデルの激動は、まだ始まったばかりと言えるでしょう。

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