今回は、1990年代より進められてきた電力の自由化によって、電力産業に大きな変化がもたらされてきたことをお伝えします。※本連載は、東京大学大学院の技術経営戦略学専攻特任教授である阿部力也氏の著書、『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、電力自由化・インターネット化で大きな転機を迎えている、電力業界の実情を見ていきます。

電力自由化の端緒になった1995年の法改正

今までの電力会社は、地域独占でしたから、長期的な計画経済を遂行していくだけで経営は安定していました。

 

地域と言っても関東とか関西とか中部地方とか、非常に大きな地域でレストランがたった1軒しかないという状態だったわけです。他に競争相手がいないのですから、メニューはたった一種類でもよかったわけです。このような状況下では、レストランの経営者という立場はとても安泰でした。食材の開発はじっくりと時間をかけて計画的に行うことができました。

 

顧客の見通し、料金設定、銀行借り入れ等すべての要素について、長期計画を立てて損が発生しないようにじっくり検討することができたわけです。

 

このような事業運営は、計画経済型であったと言うことができるでしょう。

 

しかし、時代は大きく変わりつつあります。電力自由化は実は既に20年のリードタイムがあります。爆発的な変化が起こり始めてもおかしくありません。1995年に電気事業法改正があり、最初の電力自由化が始まりました。ここで、独立系の発電事業者が卸売り電力事業に参加することができるようになりました。

 

1999年には小売り自由化の第一ステップが始まりました。 2000キロワット以上の需要家である特別高圧需要家という顧客層に、特定規模電気事業者(PPS:Power Producer and Supplier)が電力を自由に供給できるようになったのです。

 

2003年には高圧需要家という顧客層への小売り自由化が認められました。特別高圧と高圧の需要家を合わせて市場規模はおよそ12兆円と言われています。自由化前は8兆円程度と言われていましたので、自由化後に市場が拡大したと言うことができるでしょう。

 

そしていよいよ2016年4月から、最後に残った50キロワット以下の低圧需要家という顧客層が小売り自由化の対象となりました。これですべての需要家が小売り自由化の対象になったのです。低圧需要家の市場規模は、現時点でおよそ7.5兆円と言われていますが、この市場もすぐに大きな規模になることでしょう。

電力会社の数は500社以上に拡大

自由化市場では様々なアラカルトメニューが提案されます。価格も千差万別です。電力会社の数も大きく増えています。

 

皆さんご存知の東京電力や関西電力という大きな電力会社に加えて、新電力という電気事業者が誕生しています。経済産業省資源エネルギー庁のウェブページをインターネットで見ていただくと、各種統計情報(電力関連)という画面を見ることができます。このうち、発電所数・出力と言うエクセル表を開いてみてください。そこには北海道電力、東北電力、東京電力系列4社、中部電力など従来の電力会社に加えて、Fパワー、イーレックス、エネットなど、たくさんの電力会社がリスト化されています。

 

この本の執筆時点で538社となっています。日本の電力会社がこれだけ増えたという事実を皆さんはどう見るでしょう。

 

また小売電気事業者という電力の小売りを行う電気事業者はすでに318事業者、送配電を行う事業者も16社も誕生しました。

 

レストランの数ももちろん、メニューも価格もバラエティーに富んだものになったというわけです。

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