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夫が沈黙を破った理由…年収半減、「このままじゃ老後は破綻する」
レジで家族カードが止められた日の夜。帰宅した夫は、淡々と口を開きました。
「来年、会社を辞める。このままじゃ家計がもたない」
会社では業績悪化に伴う早期退職の圧力が強まっていたのです。役職定年を迎え、管理職手当が消え、年収はピーク時1,500万円から750万円前後に落ち込んでいました。
さらに追い打ちをかけたのが、退職後の家計シミュレーション。夫婦の年金見込みは合計約22〜24万円。世帯の貯蓄は約1,200万円ですが、住宅ローン残高が約800万円残っており、実質的な純資産は400万円程度。保険料・固定資産税・車の維持費などは毎年発生し、妻名義の貯蓄はほぼゼロ──。
夫は静かにいいました。「いまのままじゃ、老後は破綻する」
美佐子さんは「どうして急に?」と問いました。しかし夫の表情は変わりません。「急じゃない。何年も前からいっていた」
美佐子さんが軽い嫌味程度に受け取っていた言葉は、夫にとって家計の現実を共有してほしいという最後のメッセージだったのです。
早期退職を前に、夫は「削れる支出」の優先順位を見定めました。住宅ローンは削れない、税金も削れない、車の維持費も必要――。こうして、夫が最初に切り捨てたのは、毎月30万円の「妻の生活費」でした。それは怒りでも仕返しでもなく、家計を守るための数字上の判断だったのです。
半額シールの前で立ち尽くした妻
数日後、夫婦で初めて家計について話し合いました。夫は月10万円の生活費を再開することに同意しましたが、「これ以上は出せない」と釘を刺しました。美佐子さんは、それまでの3分の1の金額で生活を回さなければならない現実に直面したのです。
再開されたのは“妻が自由に使える生活費10万円だけ”で、固定費や貯蓄の管理は依然として夫の手に残されたままでした。
翌日、美佐子さんは、昼過ぎに近所のスーパーへ向かいました。しかし、店に入った瞬間、これまでとはまるで景色が違ってみえたそうです。値札の数字が以前より大きく感じる。惣菜を手に取り、そっと戻しました。
「半額シールが貼られる夕方まで待とうか……。惨めでたまらない。私、本当にこれからこんなことをするんだろうか」
デパ地下で好きなものを好きなだけ選んでいたころには想像もしなかった光景。値下がりするのを待ちながら、惣菜棚の前に立ち尽くす姿は、昨日までの“セレブ妻”の面影を完全に消し去っていました。
家に帰っても、現実は続きます。今夜の夕食は、198円の半額惣菜と、賞味期限が迫ってお買い得品になった鶏むね肉のこま切れに、安売りの豆腐だけ。夕食を終え、洗面所に立ったとき――鏡に映った自分の顔が、誰なのかわからなくなるほど老け込んでみえたといいます。ようやく美佐子さんは気づきました。自分が守っていたと思っていた生活は、実は、夫の稼ぎの上にかろうじて“置かせてもらっていた夢”だったことを。

