「母さん、ただいま」半年ぶりの帰省で見た“異変”
「最初に感じたのは、家の空気でした。何か…冷たいというか、違和感があったんです」
東京都内で働く会社員・佐野直樹さん(50歳・仮名)は、半年ぶりの帰省で、地方に住む母の家を訪れました。母・澄子さん(76歳・仮名)は、10年前に夫を亡くして以来、ひとり暮らしを続けています。
玄関を開けた瞬間、いつもの香りがしないことに気づき、リビングに足を踏み入れたとき、直樹さんは言葉を失いました。
「ストーブの灯油が切れていたんです。部屋は冷え切っていて、母は毛布にくるまりながら座っていました」
母は「灯油が高くてね。春も近いし、あったかくなるから大丈夫よ」と笑っていました。けれど、テーブルの上にはカップ麺の容器、冷蔵庫にはほとんど食材がない状態。かつては丁寧に食事を作っていた母の暮らしぶりが、どこか雑になっているのを、直樹さんは見逃しませんでした。
「年金って…月どのくらいなの?」と尋ねると、母は少し間を置いて、「7万円ちょっとね」と答えました。
「でも持ち家だし、節約すれば足りるから」
総務省「家計調査」(令和6年)によれば、単身高齢者の平均支出は月約15万円。物価高騰や光熱費の上昇も直撃しています。
「電気代がね、去年よりずいぶん高くなったの。テレビもあまり見なくなったわ」
年金だけで暮らす高齢者にとって、“節約”はもはや選択肢ではなく、“生きるための必須条件”となっているのです。
「この家はお父さんと建てたものなの。たとえボロでも、ここにいたいの」
澄子さんの言葉に、直樹さんは何も言い返せませんでした。
けれど——
●冬に暖房を使えない
●栄養のあるものを食べられない
●友人とも疎遠になり、口数が減る
こうした“静かな孤独”が、母の心身を確実に蝕んでいる。息子として、その事実に背を向けるわけにはいきませんでした。
