そして、“苦渋の決断”
帰京後、直樹さんは会社に相談し、リモート勤務と長期の有給を組み合わせて、1ヵ月ほど実家に滞在することを決めました。そして、ケアマネジャーの紹介で地域包括支援センターに相談。食事宅配サービスや、暖房費助成の制度、そして独居高齢者への見守り体制など、さまざまな選択肢があることを知りました。
「まだすぐに同居は難しい。でも、孤立させない方法はあると思えたんです」
厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」では、介護や福祉、医療の連携を通じて、住み慣れた地域で暮らし続けられる仕組みを整備しています。
たとえば、灯油や電気代の支援、食費の補助、民生委員による見守りなど、公的サービスと地域の力を組み合わせることで、孤立と貧困を和らげることが可能なのです。
「母さん、また来月戻ってくるからね」
玄関でそう告げたとき、母の目にはうっすら涙が浮かんでいました。
「誰かが気にかけてくれるだけで、救われることってあるんですね」
直樹さんの言葉は、現代の「ひとり老後」が抱える孤独と、不安の深さを物語っています。
親の老後資金が足りているかどうかは、「貯金額」や「年金額」だけでは測れません。暮らしの質、心の充足感、そして、困ったときに頼れる人や制度があるかどうか——それこそが、“本当の意味での安心”なのかもしれません。
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