妻の何気ない質問に絶句…家族にいえない「秘密」とは
「あなた、今日新宿にいた?」
――妻の何気ない問いに、岡崎浩介さん(仮名・54歳)は凍りつきました。
岡崎さんは外資系企業の部長として勤務。年収は約1,500万円、10年前に購入した1億円を超える都内のタワマンに妻と高校生・中学生の子どもとの4人暮らしです。
上を見ればきりがありませんが、自分でも「人並み以上の人生だ」と満足していました。ところが、そんな生活は一変していました。
岡崎さんのオフィスは港区にあり、平日は9時から勤務開始。早めに着くために8時には家を出るのがルーティンでした。
高級スーツにブラシをかけ、磨いた革靴を履き、妻にひと声かけてから家を出ます。しかし、岡崎さんが電車で向かったのはオフィスではなく新宿。人混みを抜けて目的の喫茶店に入ると、パソコンを取り出し、メールを開きます。
そして、複数の転職サイトやエージェントからの選考結果の連絡、新たな求人のお知らせに目を通して、溜息をつきました。
実は岡崎さんは3ヵ月前に会社を辞めており、無職の身。それを家族の誰にもいえず、身をひそめるようにカフェやコワーキングスペースを転々と移動して過ごしていたのです。
本社からの1通のメール、直面した転職市場での「自分の価値」
遡ること半年ほど前。いつも通り出社すると、既にフロアにいた社員たちがざわついていました。慌ててパソコンを開くと、一通のメールが。「アメリカ本社の判断で日本国内での事業を終了する」という通知でした。
「……嘘だろ?」
外資系企業は高収入ですが、経営判断が速くシビア。部署がなくなり突然のレイオフーー同業他社でそんな場面も見てきました。ですが、「自分はそういう不幸とは縁がない」と、なぜか思っていたといいます。
実際の退職までには3ヵ月の猶予があり、その間に残務処理をしたり、退職金の説明を受けたり、忙しない日々の中で職探しもしなければなりません。岡崎さんにとっては数十年ぶりの転職活動です。
ところが、希望するポジション自体ほとんどなく、あっても収入が半減。転職エージェントの「条件を緩めたほうがいい」という言葉を飲んでもなお、選考を通らないのです。
退職金のおかげで、家族がすぐに路頭に迷うことはありません。ですが、転職ができなければ、いや、もしできたとしても、年収が減れば今の生活を維持できるかわかりません。プライドをかなぐり捨てて知人に再就職先がないか聞いても、芳しい返答はありませんでした。
これまで挫折という挫折を経験せずに生きてきたこともあり、岡崎さんの心は折れかけていました。
そんな中で、冒頭の何気ない問いかけ。妻の友人が偶然新宿で岡崎さんを見かけた。たったそれだけのことなのに、顔色が変わり言葉が出ない。そんな岡崎さんの様子に、妻のほうが異変を感じ取ったのでした。
