「ようやく来てくれた」…小さな会社に訪れた“希望”
「これでようやく、人手不足から抜け出せるかもしれないと思いました」
そう語るのは、都内の従業員20人ほどのIT系ベンチャー企業で人事を担当する田口さん(仮名・34歳)です。年収は420万円。業績は堅調ながら慢性的な人手不足に悩んでおり、求人広告を出してもなかなか人が集まりませんでした。
そんな中、応募してきたのが、大手商社を60歳で定年退職したという藤井さん(仮名)でした。英語も堪能で、過去には海外支店のマネジメントにも携わっていたという輝かしい経歴に、田口さんは「願ってもない戦力」だと感じたといいます。
ところが、入社から3週間が経ったある日、藤井さんから突然「やめさせていただきたい」と申し出がありました。
「最初の1週間で違和感はありました。指示を出すと、いつも『でも』『それは違うと思う』と返ってくる。私たちはベンチャーらしく、スピード感を持ってPDCAを回したいのですが、藤井さんはまず“会議体を整える”とか“意思決定プロセスを明文化する”とか、大企業的な進め方を提案される。それも間違ってはいないのですが、正直、リソースが追いつかないんです」
社内では、藤井さんが若手社員に「もっと慎重に進めるべきだ」「そのやり方は無責任だ」と語る場面もあり、雰囲気は次第にぎくしゃくしていきました。
「年齢も経歴も上の方なので、誰も強くは言えませんでした。でも、その“見えない圧”が社内に広がっていったんです」と田口さんは振り返ります。
(株)帝国データバンク『中小企業の経営課題とその解決に向けた取組に関する調査』によれば、約7割の中小企業が「人材不足感」を抱えており、その受け皿としてシニア人材への期待は高まっています。しかし、年齢・価値観・労働観の違いが職場に摩擦を生むことも少なくありません。
