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消えた2億円
そんなはずはない――。あの営業マンは誠実だったし、書類も完璧だった。それなのに、いまはすべてが嘘に思えます。あの日のラウンジの光景が脳裏によみがえりました。夕日、丁寧な物腰、「社長のような方にだけ」という甘い言葉。すべてが音を立てて崩れていきます。
「……手付金は? 2億だぞ……?」「連絡は取れません。振り込んだ口座も……すでに凍結されています」
周囲の音が消えました。ただ、自分の心臓の音だけが、やけに大きく響いています。全身から血の気が引いていくのに、体中から嫌な汗が噴き出してくる――。名前の刺しゅう入り、オーダーメイドシャツがジトジトと濡れていきます。社長室の床に崩れ落ちて、しばらくのあいだ呆然としていました。
2億円は、消えた。その現実が、ゆっくりと、確実に、社長の中へ沈んでいきました。
社長が見抜けなかった理由
山崎社長を欺いた詐欺師たちの手口は、驚くほど整っていたのです。
1.最初の接触から始まっていた
後日、警察の調査でわかったのは、ラウンジで会った営業マンは、実在する不動産会社の“名刺を真似た偽物”だったということ。メールアドレスは巧妙に偽装され、電話番号はIP電話に転送設定されていました。名刺の質感まで、本物そっくり。“信用できそうな人間”を装うために、彼らは細部を極限まで作り込んでいたようです。
2.完璧すぎる書類
登記簿や公図などの書類はすべて精巧な偽造でした。専門家でさえ「パッと見では判断できない」というほどの精度。「書類が完璧なら人は疑わない」という心理を、詐欺師たちは熟知しています。
3.“特別感”と“優越感”を刺激する言葉
「社長のような方にだけ」「市場に出る前の裏情報です」「いまだからお持ちできる話でして」といったフレーズは、人間の心に眠る“選ばれたい欲”を刺激します。“選ばれる側”に立った瞬間、冷静な判断は感情にかき消されてしまうのです。
