「家を買うのが最優先」の日々
坂口美咲さん(34歳)は、夫の健介さん(35歳)と幼稚園の娘との3人暮らし。都心まで電車で1時間半ほどの距離にある町で、家賃10万円の賃貸マンションで暮らしていました。
健介さんは中小企業の会社員(年収450万円)、美咲さんは時短勤務中(年収180万円)。実家と同じ一戸建てを持つことが、結婚当初からの美咲さんの夢でした。
「注文住宅は厳しいので、分譲住宅」「娘が小学校に入学するまでに」「ローンを軽くするために頭金は700万円」。そう目標を決めていました。
国土交通省が発表した「令和6年度 住宅市場動向調査」によれば、新築の分譲戸建住宅を初めて取得した世帯主の平均年齢は37.3歳。美咲さん夫婦はまさに、その年齢に近い世代でした。
早く夢を叶えるには、切り詰めた生活が必要です。業務用のスーパーで食材を揃え、家族の外食は月1回、安さで有名なイタリアンチェーン店で、1回3,000円まで。休日は遠出を控えて近所の公園が定番。レジャー費は常に最小限でした。
「まずは家を買ったらね!」
それが美咲さんの口癖。健介さんは「僕はずっと賃貸でもいいんだけど」と言いつつ、美咲さんの熱意を受け、節約生活に協力していたといいます。そんな努力もあり、5年間で650万円を貯金。目標まであと少し。そう夫婦で話していました。
ところが、そんなある日、突然の悲劇が訪れます。健介さんが仕事帰りに倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。病名は心筋梗塞。前触れと呼べるような症状もなく、美咲さんは言葉にならない衝撃に呆然としました。
