●植田総裁は賃上げに関する前向きな動きを列挙して、1月利上げ直前と類似のメッセージを発信。
●円安も注視、また緩和度合いの適切な調整は、政府・日銀の取り組み成功につながると明言した。
●植田総裁発言を受け12月利上げの予想に変更、ただ昨日のような国内市場の反応は一時的か。
植田総裁は賃上げに関する前向きな動きを列挙して、1月利上げ直前と類似のメッセージを発信
日銀の植田和男総裁は12月1日、名古屋市で地元経済団体向けに講演し、その後、会見を行いました。今回は、いくつか重要なキーワードが示されたと思われますので、以下、要点を整理します(図表1)。まず、「賃金」について、植田総裁は来年の春季労使交渉(春闘)に向けた初動のモメンタム(勢い)の確認が重要との見解を改めて示した上で、連合や経団連、経済同友会の、賃上げに関する前向きな動きを列挙しました。
さらに、「本支店を通じ、企業の賃上げスタンスに関して精力的に情報収集している」ことを明示し、この点を含め「利上げの是非について、適切に判断したい」と述べました。この発言は、今年1月の利上げ直前にみられた、氷見野良三副総裁の発言(「1月に利上げをするかどうかというところが議論の焦点」)や、植田総裁の発言(「利上げを行うかどうか議論して判断する」)に類似しています。
円安も注視、また緩和度合いの適切な調整は、政府・日銀の取り組み成功につながると明言した
次に、「為替」について、植田総裁は「過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」とし、「そうした動きが、予想物価上昇率の変化を通じて、基調的な物価上昇率に影響する可能性があることに留意が必要」との考えを示しました。なお、直近では、片山さつき財務相から円安をけん制する発言もあり、政府・日銀とも、一段の円安進行を警戒している点で一致していると思われます。
植田総裁はまた、最近の米国経済や関税政策を巡る「不確実性」は低下し、経済・物価の中心的な見通しが「実現していく確度」は、少しずつ高まっているとの認識を示しました。また、利上げは景気にブレーキをかけるものではなく、アクセルをうまく緩めていくプロセスであるとし、遅すぎず、早すぎず、緩和の度合いを適切に調整していくことは、「政府と日銀の取り組みを最終的に成功させることにつながる」と明言しました。
植田総裁発言を受け12月利上げの予想に変更、ただ昨日のような国内市場の反応は一時的か
弊社は従来、日銀が春闘の初動のモメンタムを丁寧に見極めることを想定し、25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利上げが決定される時期を2026年1月としていました。ただ、今回の植田総裁の発言を踏まえると、その見極めには時間をかけない様子がうかがえ、円安の動きも考慮し、12月の利上げに向けた地ならしを行ったと推測されます。これらを踏まえ、利上げ時期を12月に前倒す一方、次回は2026年7月との見方を維持します。
12月1日の国内市場では、12月の利上げの織り込みが進み(図表2)、各期間の国債利回りが上昇し、ドル安・円高が進行、日経平均株価は下落しました。ただ、日銀の利上げは、政策金利を緩和的な水準からゆっくりと中立水準へ戻すことを念頭に行っていると考えられ、長期的にみれば、国内経済や金融市場にはむしろ好ましいと思われます。そのため12月の利上げ織り込みに起因する昨日のような国内市場の反応は一時的なものとみています。
※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『12月1日の植田総裁発言を読み解く【三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト
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