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一人娘として育った菜穂子さん
東京都内で会社員として働く菜穂子さん(40歳・仮名)は、山梨の実家で育った一人娘。派手ではないものの、両親の愛情に恵まれ、不自由なく過ごしてきました。家は昭和の一般家庭らしく、母は口うるさく、何かにつけて干渉してくるタイプ。地元の新興宗教に入っていて、幼い菜穂子さんを連れて集会に通った時期もありました。
さらに、今でこそ落ち着いている両親ですが、菜穂子さんが家にいた頃、夫婦仲は決して良いとはいえませんでした。母は父の愚痴を、まるで日課のように娘へぶつけていました。
そんな家庭環境の中で、もうひとつ大きな出来事がありました。現在80歳の父と73歳の母は今も実家で二人暮らしですが、100歳になる祖母は施設に入っています。本当は「家で最期まで暮らしたい」と望んでいた祖母。しかし介護が必要になったタイミングで、菜穂子さんが「お母さんが潰れちゃうと思う。私は反対」と強く反対。東京にいながら祖母の施設を探して、何とか施設に入れるように整えました。
「母の負担を思えば、在宅はあまりにも現実的じゃなかった。あの決断は母も感謝してくれています」
母も「あなたが反対してくれて助かった」と言い、菜穂子さん自身も“我が家は介護は施設でいく”という流れが自然にできたものだと安心していたといいます。
「お母さんのことは頼むよ」違和感を抱いた父の言葉
先日、久々に帰省した菜穂子さんは、食後の団らんの中で父から突然こんな言葉を投げかけられます。
「いずれ、お母さんのことは頼むよ」
あまりにさらっとした口調で、逆に意味がよくわからなかったといいます。母に確認すると、母は静かに、しかしはっきりとこう言いました。
「私は施設には入りたくないの。最期まで家で暮らしたい」
その瞬間、菜穂子さんの視界が一瞬暗くなりました。
「え? おばあちゃんのときは施設でよかったんじゃないの?」
思わずそう言葉が漏れましたが、母は首を振るばかり。
「私が“そのとき”にあなたを頼るのは、当たり前だと思ってる。だって一人娘なんだから」
今は距離があるからうまくやれている関係──。しかし一緒に暮らすとなれば話は別です。
「過干渉な母と同居なんて絶対に無理。想像しただけで息苦しくなるんです」
菜穂子さんは自分が育ってきた家庭環境を静かに語り始めました。
「子どもなのに“母の味方”にさせられていた感じでした。だから大人になる前は父のことがあまり好きではなかったんです。本当は一生懸命働いて学費も全部父が出してくれていたのに……」
そのため、菜穂子さんは大人になっても“幸せな家族のイメージ”が持てず、結婚にも消極的でした。子どもを欲しいと思ったこともありません。
「同級生が『早く子ども欲しいな』なんて言っているのを聞くと、『この子はいい家庭で育ったんだろうな』って、どこか距離を感じてしまって。でも田舎だったし、周りの家も似たような感じでした」
頼れる家族のロールモデルが一度もなかったこともあり、菜穂子さんは「自分を守れるのは仕事とお金だけ」だと考えるように。
「だからこそ仕事だけは絶対に辞めずに頑張ろうと思いました。経済的に自立していれば、誰にも頼らずに生きていけると思ったんです。もう家族に振り回されるのはたくさんなんです」
