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日本で予算が無駄に使われた3つの分野
残念ながら、日本で産業クラスターが試みられた2000年代、予算が配分された地方ではこの考え方を理解することができず、国費1500億円が無駄になった。当時の資料を見ると、「産官学連携、企業城下町、系列、産業集積などと、一体どう違うのか」という混乱した様子がわかる。
では日本では、一体何に予算が使われたのだろうか。筆者はその検証をしてみた。日本の地方自治体の産業振興に関する施策は、「座学」「相談」「マッチング」の3つがメインとされている。産業クラスター予算も、この3つにほとんどが使われていた。
セミナーなどで産業クラスターの説明が行われる「座学」では、「ああ、話が面白かった」で終わってしまう。
この点は筆者も痛感している。筆者は、これまで地方からの要請で、ドイツの中小企業や産業クラスターに関する講演を行ってきた。だが、講演後は、「今日の話は面白かったです。ありがとうございました」で終わってしまった。「通商白書」がドイツ経済の分析特集を行った2012〜2016年頃、それはドイツが「インダストリー4.0構想」を発表した2011年以降の時期とも重なるが、この時期、日本企業の間では一種のドイツブームが起きた。
多くの企業がドイツ詣でを行った。当初、ドイツの人々は、笑顔で日本企業の視察を受け入れていたが、やがて拒否するようになった。どんな話をしても、次につながる様子がない、単なる時間の無駄と気づいたのだ。
米国シリコンバレーでも、同じようなことが起きた。日本企業の視察は物見遊山でしかない、とわかったのだ。日本からやってきて一緒に写真だけ撮って帰る議員もいる。相手は忙しく仕事をしているのに、日本人はそこへ出かけて行って、まるで見世物小屋のように見学だけ楽しんで帰っていくのだ。
日本人は「ご挨拶に伺いたい」と言うが、ドイツでは具体的な用事がなければ貴重な時間を使わない。
ビジネスにつながらないことはしないドイツ
「相談」のレベルになると、日本の地方自治体が実施する相談業務では、企業が出向き、相談業務の担当者は椅子に座って待っている。企業が相談に来なくなったら、終わりである。
成果が出るまでには長い時間を要する。その間、ずっと中小企業が相談窓口に通い続けるのはかなり大変である。だから途中で、途絶えてしまう。ここでも、予算が無駄に消化されている。
「マッチング」も、単なる懇親会、名刺交換会だけで終わってしまうことが多い。予算は会議室の賃料、懇親会の飲食代に消えていった。
この主要3業務に全国津々浦々で国費1500億円が投入され、結局、何も成果が上がらなかった。そこから、GNT(Global Nitch Top)企業または隠れたチャンピオン(※)は1社も生まれなかったと言ってよい。
ドイツのハーマン・サイモン(Hermann Simon)によって提唱された「経営学」上の用語である。比較的規模が小さい企業も多く、一般的な知名度は低いが、ある分野において非常に優れた実績・きわめて高い市場シェアをもつ会社のことを指す。
それに比べて、ドイツの産業クラスターでは、「座学」「相談」「マッチング」のような、「お金を稼ぐ」ことにつながるかどうかよくわからないあやふやな業務にお金は使われていない。ドイツ人は、「お金を稼ぐ」ことに愚直に努力する。地方政府が、企業が「お金を稼ぐ」ことができるように、企画・開発から営業までを手取り足取り支援する。
その結果、企業の売上が増え、お金を稼ぐことができるようになったのである。別な見方をすれば、日本の地方政府は、「産業振興」の名の下に国の予算を消化することに関心があり、企業が「お金を稼ぐ」ことには関心がないように見える。実態を見ると、そうとしか思えない。
