「年を取ると賃貸住宅は借りられない──」そんな話を聞いたことがある人も多いでしょう。こうした不安から、焦ってマイホームを購入しようとする人もいます。しかし、その判断が思わぬ老後の生活苦につながることも……。今回は、そんな“安心を求めたはずが苦境に陥った老後”を事例と共に見ていきましょう。

「年を取ると賃貸住宅は借りられない」を恐れ、思い切った決断

鈴木一郎さん(仮名・現在72歳)と妻の恵子さん(同72歳)は、今、地方の公営団地の一室で静かに暮らしています。質素だけど平和な日々。ですが、ここに至るまでには、住まいに翻弄された人生がありました。

 

約20年前、一郎さんが54歳、恵子さんが52歳のときのこと。二人は長年住んだ賃貸マンションの更新を迎え、将来への不安が募っていました。

 

「このまま賃貸で暮らして大丈夫なのかしら……」
「今のマンションを出ることになったら、次は見つからないかもな」

 

年を取ると賃貸は借りにくくなる。そんな話を聞いていた二人は、老後を前に不安に駆られていました。「住む場所くらい確保しておかないと」と焦り、結局、築15年の中古マンションを購入したのです。

 

購入価格は2,950万円。手元の貯金の大半450万円を頭金に充てました。そして、残り2,500万円を住宅ローンで賄うことに。

 

銀行の説明では「80歳までに返済可能」とありましたが、これは繰上げ返済を前提にした設計でした。二人は「少しずつ繰上げ返済して、退職金でまとめて返済すればいい」と考えていたのです。

退職金とローン返済の現実

ところが、現実はそううまくはいきませんでした。

 

繰上げ返済どころか、息子・娘の教育費や長年積み重なった生活費の補填に給料が消え、貯金もままなりません。60歳で一郎さんが受け取った退職金は1,200万円ありましたが、ローン返済に充てられるのはわずか300万円程度でした。

 

さらに、小さな会社で経営不振により継続雇用が難しく、一郎さんは再雇用先を見つけたものの、月収が15万円程度に激減。ローン返済は月約11万円で、妻のパート収入を足しても生活費と両立させるのがやっとです。

 

年金暮らしに入ってもローン返済は続きます。夫婦で月21万円ほどの年金額でしたが、返済に圧迫されて生活は厳しい状況。夫婦とも働いて補填せざるを得ません。それも、年を重ねるごとに、体にも心にも負担が大きくなっていったのです。

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