ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
財政赤字が続く英国、富裕層課税へかじを切る
英国の現政権であるキア・スターマー首相(労働党、2024年7月就任)の前には、以下の3政権が続きました。
・リズ・トラス(2022年9月6日~2022年10月25日:保守党)
・リシ・スナク(2022年10月25日~2024年7月5日:保守党)
ジョンソン政権ではコロナ対策のために大規模な財政支出が行われ、トラス政権は財源の裏付けがない積極財政を打ち出した結果、市場の不信を招いて短命に終わりました。
スターマー政権は労働党として約14年ぶりの政権奪還を果たしましたが、高インフレと高債務により200億~350億ポンド(約4兆~7兆円)の歳入不足を抱えています。
しかし、選挙公約で掲げた「所得税・付加価値税・社会保険料の引き上げは行わない」という約束が足かせとなり、リーブス財務相は富裕層を中心に課税強化を検討せざるを得ない状況です。
ノンドム優遇廃止と不動産課税強化
2024年秋の最初の予算では、英国非永住者(ノンドム)向けの税優遇措置の廃止が発表されました。これにより、著名な投資家や起業家が次々と国外へ脱出し、税制上の優遇が残るイタリアなどが移住先として注目されています。
同時に、地方税であるカウンシルタックス(Council Tax:CT)の課税強化も検討が進んでいます。CTは居住用不動産の評価額に応じて課税される固定資産税に類似した税で、英国歳入関税庁(HMRC)の資産評価局(VOA)がA~Hの区分で評価を行います。
リーブス財務相はこのCTを再構築し、高額不動産への課税を強化する方針を明らかにしています。
焦点は「清算税」導入
2025年11月末に公表予定の予算案で最大の焦点となっているのが、「清算税(Exit Tax)」の導入です。
この制度は、日本で2015年度に創設された「国外転出時課税制度(出国税)」に近い仕組みで、国外に資産を移すことで課税を逃れようとする行為を防ぐ狙いがあります。
英国案では、次のような課税内容が検討されています。
・出国時点で保有する英国資産に対し、20%の課税
・現行制度下で非課税となっている「国外転出後の売却益」を対象に
・約20億ポンド(約4,000億円)の税収増を見込む
リーブス財務相は「富裕層の公平な負担を確保する」と説明していますが、法案成立前からすでに税逃れを懸念する富裕層の国外脱出が進んでおり、逆効果になる可能性も指摘されています。
「出国税」で財政再建なるか、それとも“富裕層離れ”加速か
清算税が導入されれば、短期的には税収確保に寄与する見込みがあります。
一方で、企業家や資産家がより税負担の軽い国へ移住すれば、中長期的には投資・雇用・消費の減少を招きかねません。
英国経済が直面しているのは、単なる財政再建ではなく、「課税強化と国際競争力の両立」という難題です。清算税がその解決策となるのか、それとも新たな混乱をもたらすのか――今後の動向が注目されます。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
