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せっかく入れたインプラントを台無しにする「周囲炎」とは
インプラントのトラブルには、起こった場所によって比較的リカバリーがしやすいものと、困難なものがあります。
インプラントの人工歯部分(上部構造)にトラブルが生じた場合、それ自体は修理したり作り直したりすることで解決できることがほとんどです。
ところが、インプラントの土台となるフィクスチャーがだめになった場合は話が別です。もう一度手術をして、フィクスチャーの入れ替えをしなければならなくなり患者さまの負担がたいへん大きくなります。場合によっては、フィクスチャーを支える骨を新たに作る必要があるなど、治療の最初の段階、もしくはそれ以前に戻ってしまう恐れもあるのです。
フィクスチャーがだめになる最も大きな原因は、「インプラント周囲炎」と呼ばれる疾患です。これはインプラントの周囲の歯茎や骨に炎症が起こるもので、天然の歯に起こる歯周病に似た状態です。
インプラントには形状や表面の性質、構造が異なるさまざまな種類があると話しましたが、私の個人的な意見としては、これまで使ってきたなかで、インプラント周囲炎になりやすいものとなりにくいものがあるように感じています。他院で治療後にトラブルが発生して、私のクリニックに相談に来る人も少なくありません。せっかく時間と費用をかけて治療を受けたのに、残念な結果になってしまうケースもあります。そうならないためには、治療を受ける側もある程度の知識をしっかりもつことも大切だと思います。
インプラントは、天然の歯のようにむし歯になることはありません。また、「歯根破折」と呼ばれる歯根が折れるようなトラブルも、ほとんどありません。これまでに数例だけインプラント体が折れてしまった症例を見たことがありますが、そのようなことはごくまれといっていいと思います。
一方で、インプラント周囲炎は、インプラントを入れて3年以上の人の約1割がかかっているという日本歯周病学会の報告もあります。
ただしこれは歯科医院でメインテナンスを行った結果見つかった数であり、治療後にメインテナンスに通っていない患者さまを含めれば、潜在患者さまの割合はもっと高いことが推察されます。インプラント周囲炎は決してまれな病気ではないのです。
インプラント周囲炎とは、歯周病と基本的には同じ原理で起こる歯科疾患です。自前の歯ではないのに歯科疾患とはちょっと違和感があるかもしれませんが、周囲炎のターゲットはフィクスチャーが埋入されている歯槽骨をはじめとした周囲組織です。ここがいわゆる歯周病菌と呼ばれる、歯茎に炎症を起こす菌の感染により溶かされてしまい、進行するとフィクスチャーが支えを失いぐらついたり抜けたりしてしまうというわけです。
では菌感染はどこから起こるかといえば、おもにはインプラントが埋入されている歯茎の“キワ”です。ここにわずかでも隙間があると、食べ物などの汚れが溜まりやすくなります。そして、それを好物とする菌が棲すみつき、増殖して、組織を溶かしていってしまうのです。進行しても痛みなどの自覚症状に乏しいことも、歯周病とよく似ています。
周囲炎が怖いのは、不治の進行性の病気であることです。感染のごく初期の段階は粘膜炎と呼ばれ、この時点で発見されれば治療が可能で、歯茎の状態は元に戻ります。炎症が歯茎のごく表層にとどまっていて、骨まで至っていないため、粘膜の炎症が治まれば治癒するのです。
ところがそれ以上に、炎症が進み骨がひとたび溶かされると、その部分の骨を元に戻すことは非常に困難です。近年、インプラント周囲炎で失われた骨を再生させる技術も存在しますが、適応症は限られ、結局そのまま使用するか撤去しないと仕方がない場合が多いのが現実です。
