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インプラント治療の歴史
インプラント治療が初めて人間に施されたのは、今からちょうど60年前の1965年のことです。スウェーデン・イエテボリ大学のブローネマルク博士という医師が、ある患者さまにインプラントを埋め込んだのがその始まりでした。
この治療法のきっかけはブローネマルク博士が行っていた動物実験で、偶然発見されました。彼はチタンという金属が骨と結合するという現象(のちに骨結合:オッセオインテグレーションと呼ばれるようになる)を見つけ、これを応用できないかと考えました。その後多くの動物実験を繰り返し、さまざまな形状やサイズのインプラント体を試しながら改良を重ね、人間への応用に確信をもつようになります。
そして、最初の患者さまとなったのは、病気のため歯を失い食事が困難だったスウェーデン人のヨスタ・ラーソンさんでした。この治療によってヨスタさんは再び食事を楽しむことができるようになり、そのインプラントは何度かの修理や追加の手術を経て、約40年間にわたり機能し続けました。彼は2006年に亡くなるまで、インプラントのおかげでしっかりと食事を摂ることができていたのです。
ブローネマルク博士は、1965年以降、多くの患者さまにインプラント治療を施し、その成果を1970年代に「インプラント治療10年経過報告」という論文で発表しました。この論文は整形外科領域の専門誌に掲載されていましたが、1970年代後半に東京歯科大学の小宮山彌太郎先生が図書館で偶然目にしたことで、日本におけるインプラント治療の発展につながることになります。
このように、ブローネマルク博士が骨結合を偶然発見したように、日本でインプラント治療が広まったきっかけもまた偶然でした。しかし、こうした偶然の積み重ねが、現在のインプラント治療の基盤を築いたのです。
インプラント治療がスウェーデンで始まった1960年代、スイスでも別の道をたどる研究が進められていました。当時、スイスにあったストローマン研究所という小さな研究機関が、骨折治療のためのインプラントを開発していたのです。1964年にはスイスのバーゼル大学と連携し、整形外科用のインプラントを発売しました。この研究が評価され、1974年にはベルン大学と共同で歯科用インプラントの臨床応用に着手しました。
1976年、スイスのシュレーダー博士が発表した研究が歯科インプラントの新たな可能性を切り拓きます。博士はインプラントの表面にチタンプラズマスプレー(TPS)という加工を施すことで、骨との結合が飛躍的に向上することを示しました。このTPS加工が現在のストローマンインプラントの基礎となり、のちに発表されるSLA(サンドブラスト酸化処理)と呼ばれる表面性状の原型となりました。このSLAは、現在でも多くの歯科医師が採用しているものです。
こうした1960年代から1970年代にかけての重要な研究や技術革新が、現代のインプラント治療の原点となっています。そして、この時代の成果を基盤に、インプラント治療は世界中へと広がっていきました。さらに1980年には、SLAを開発したシュレーダー博士を中心に、インプラント治療の専門家が集まる国際組織「ITI(InternationalTeamforImplantology)」が設立されました。この組織はインプラント治療の普及と技術革新を牽けんいん引し、治療法の急速な発展を後押ししました。
ITIは一貫して、エビデンス(科学的根拠)に基づいた治療ガイドラインの作成や、最新の研究成果を共有する場としての役割を担ってきました。世界各国の歯科医師や研究者、教育者などから構成され、定期的な学術大会の開催や専門書の発行などを通して、インプラント治療の安全性と有効性を高める活動を精力的に行っています。
