シニアアルバイト=楽という誤算
そもそも、シニアの働く環境は決して“ぬるく”ありません。厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」(2024年)によると、60歳以上の継続雇用率は約80%。多くの人が再雇用などで働き続けています。けれども、その多くは60歳になる前の給与の6〜7割に減額されています。
正社員ではなくアルバイトなどの非正規雇用で働く人も少なくありません。「マイナビ ミドルシニア/シニア層アルバイト・パート実態調査(2024年)」によれば、60代男性のアルバイト年収は平均129万円ほど。ほとんどの場合、会社員時代と比べて大きく収入が減ります。
さらに、体力面や記憶力の衰えという現実に直面することも。長年の経験が通用しない場所で、一から仕事を覚えるのは想像以上に大変なこと。Aさんも「息子みたいな年の社員に注意されると、何とも言えない気持ちになる」と苦笑します。
アルバイトだからといって、急にシフトに穴をあけることもできません。雇用形態に関わらず、働くのであれば相応の責任がともないます。
「会社員を辞めたら楽になる」 「気楽に稼ぎたい」……そう思うかもしれませんが、実際には楽して得られる収入は存在しないのです。
「“バイトは楽”と甘くみていたのは間違いありません。もし会社に残っていれば、給料は減っても安定していました。当時は会社から離れたい一心でしたが、それまで耐えてきたのだからあと5年、オフィスの片隅にいたほうがよほど楽だったのかもしれない。未練なんてなかったはずなのに……」
Aさんは、そう静かに語ります。ですが、働き始めてから半年ほどたち、徐々にお店の役に立っていると感じることが増えたとか。
「仕事を少しずつ覚えてからは、社員や他のアルバイトとも臆することなく話せるようになってきた。それに、シニア世代のバイト仲間に聞いたら、みんなそれなりに苦労してるって。なんだか安心しましたよ」
本当にようやく、この選択でよかったのかもと思うようになってきた。せっかく雇ってもらったし、貯金を減らさないよう稼がなきゃいけないし、言い訳ばかりはしてられません。――そう笑う顔には、静かな覚悟が宿っていました。
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