母の部屋から出てきた「一通の封筒」
「これ、何だろうね」
都内在住の会社員・川口陽一さん(仮名/40歳)は、65歳で急逝した母・節子さんの遺品整理をしていたとき、クローゼットの奥にしまわれた一通の封筒に目をとめました。
「証券会社」と書かれた封筒の中には、見慣れない数字がずらりと並ぶ書類――投資信託の運用報告書でした。そこにはこう記されていました。
「取得価額:120万円」「評価額:620万円」
「えっ……これ、本当に母さんの名前だよな?」
証券口座の番号、母の氏名、投資信託のファンド名。間違いなく本人のものです。投資なんて一度も口にしたことのない母が、知らないうちに大金を増やしていたのです。
川口さんによると、節子さんは元々「堅実で倹約家」。年金とパート収入で質素に暮らしており、生活に余裕があるようには見えなかったといいます。
「たぶん、銀行で勧められたんでしょうね。定期預金のつもりで、投資信託を買ったのかもしれません」
実際、投資信託の購入は「銀行などの対面営業をきっかけに始めた」という高齢者が多く、商品内容を完全に理解せずに購入しているケースも少なくありません。
投資信託や株式などの金融商品は、相続人が名義変更手続きをしない限り、現金化も引き出しもできません。放置されれば、相続税の申告漏れにつながるリスクもあります。
川口さんも最初は戸惑いましたが、ネット証券のカスタマーサポートに相談し、なんとか数ヵ月かけて相続手続きを終えたそうです。
こうした「気づかれないまま放置された金融資産」は、いわゆる“塩漬け口座”として毎年多く発生しています。特に高齢者層では、以下のような理由で相続されずに放置されることが珍しくありません。
●本人が「投資していたこと」を家族に伝えていない
●郵送物を断捨離・破棄してしまう
●相続人が書類の内容を理解できず、行動しない
●相続税申告が済んでも、金融資産の名義変更が漏れる
こうした状況を受けて、金融庁や証券会社は「エンディングノート」や「口座一覧の整理」を推奨しています。
