(※写真はイメージです/PIXTA)

相続をめぐるトラブルは、最も身近な家族関係を一瞬で壊してしまうことがあります。特に、「介護をどれだけ担ってきたか」「誰が実家に住み続けるのか」といった問題は、法律だけでは割り切れず、感情の対立を生み出しがちです。相続人本人だけでなく、義理の家族が関わることで、話が複雑化するケースも少なくありません。

「売ればまとまった金が入るから」義弟の要求に、ついに…

義弟の要求はさらに強まります。

 

「不動産として置いておく意味はない。売ればまとまった金が入る。資産を生かすのが正しいでしょ?」

 

その言い方は、香織さんにはこう聞こえました。

 

「家族の記憶より金の方が大事なんだ」

 

香織さんは、ついに声を荒げました。

 

「いい加減にして! 母の家を“資産”と言い切るあなたとは、もう話したくない!」

 

妹とはその日以来、連絡が途絶えています。

 

介護の負担や貢献が大きかったとしても、相続においてその努力が十分に反映されるとは限りません。民法上、相続はあくまで法定割合に基づいて行われるため、「自分が長年介護してきたのに、何の支援もなかった兄弟姉妹と同じ取り分なのか」といった不満が生まれやすいのが実情です。

 

また、実家などの不動産は現金のように均等に分けることが難しいため、トラブルの火種になりやすい遺産のひとつです。相続人のうち誰かが住み続ける場合には、他の相続人に対して代償金を支払う必要が生じることもあり、相続後の生活設計にも影響を及ぼします。

 

こうしたトラブルを防ぐには、生前からの家族間での話し合いが何よりも重要です。遺言書の作成や生前贈与の活用、定期的な家族会議を通じて意思を共有しておくことが、後の相続争いを避けるための大きな一歩となります。

 

香織さんは、今も実家に一人で暮らしています。

 

「落ち着いたら話し合うことになるのでしょう。でも…今は、母が悲しむと思うから、会えません」

 

姉妹の関係は、いまも修復できずにいます。

 

相続は、法的な手続きであると同時に、家族の記憶と感情の問題です。「お金」をどう分けるかではなく、「気持ち」をどう整理するか。その難しさに、多くの家庭が直面しています。

 

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