「売ればまとまった金が入るから」義弟の要求に、ついに…
義弟の要求はさらに強まります。
「不動産として置いておく意味はない。売ればまとまった金が入る。資産を生かすのが正しいでしょ?」
その言い方は、香織さんにはこう聞こえました。
「家族の記憶より金の方が大事なんだ」
香織さんは、ついに声を荒げました。
「いい加減にして! 母の家を“資産”と言い切るあなたとは、もう話したくない!」
妹とはその日以来、連絡が途絶えています。
介護の負担や貢献が大きかったとしても、相続においてその努力が十分に反映されるとは限りません。民法上、相続はあくまで法定割合に基づいて行われるため、「自分が長年介護してきたのに、何の支援もなかった兄弟姉妹と同じ取り分なのか」といった不満が生まれやすいのが実情です。
また、実家などの不動産は現金のように均等に分けることが難しいため、トラブルの火種になりやすい遺産のひとつです。相続人のうち誰かが住み続ける場合には、他の相続人に対して代償金を支払う必要が生じることもあり、相続後の生活設計にも影響を及ぼします。
こうしたトラブルを防ぐには、生前からの家族間での話し合いが何よりも重要です。遺言書の作成や生前贈与の活用、定期的な家族会議を通じて意思を共有しておくことが、後の相続争いを避けるための大きな一歩となります。
香織さんは、今も実家に一人で暮らしています。
「落ち着いたら話し合うことになるのでしょう。でも…今は、母が悲しむと思うから、会えません」
姉妹の関係は、いまも修復できずにいます。
相続は、法的な手続きであると同時に、家族の記憶と感情の問題です。「お金」をどう分けるかではなく、「気持ち」をどう整理するか。その難しさに、多くの家庭が直面しています。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
