「あんなに立派な施設なのに…」予想外だった“父の孤独”
「施設に入れば、父も安心して暮らせると思っていました。むしろ、それ以外に選択肢がないとさえ思っていたんです」
そう語るのは、都内在住の長谷川麻衣さん(仮名・53歳)。介護が必要になった父(82歳)のために、民間の有料老人ホームを探し始めたのは、脳梗塞で入院した翌月のことでした。
病院から退院を迫られる中、「すぐにでも入居可能」「看護師が常駐」「食事が美味しい」などの条件を満たす施設は限られており、見学1件目で契約を決めたといいます。入居金は1,500万円、月額費用は30万円以上。それでも「父に最善を」と考え、迷いはなかったと話します。
ところが、入居から3ヵ月経った頃、父の様子に変化が現れました。
「面会に行っても、“もう帰っていいよ”とそっけなくて…そのうち、顔を見ても反応が薄くなっていったんです」
施設内ではほとんど他の入居者と交流がなく、日中も自室でぼんやりテレビを見て過ごす日々。スタッフに尋ねても「特に問題はありません」と言われるばかりで、原因がわからなかったそうです。
麻衣さんの父は、都内の企業で管理職を務めていた元会社員。定年退職時には3,000万円以上の退職金を受け取り、「老後は迷惑をかけたくない」と語っていたといいます。そのため、麻衣さんも「父の預貯金の範囲で、できるだけよい環境を整えよう」と考えていました。
「当時は、“これ以上ない選択だった”と信じていました。でも今振り返ると、父に必要だったのは“高級さ”ではなく、“日々の会話や小さな役割”だったのだと思います」
高級施設の多くは、プライバシーを重視して個室中心となっており、食事やレクリエーションも自由参加です。人付き合いが苦手な高齢者にとっては、「声をかけてもらえない」空間になりやすく、孤立が進んでしまうケースもあります。
