通帳を見た瞬間、「目の前が真っ白になった」
「これ、見間違い…じゃないよね?」
そうつぶやいたのは、都内在住の75歳女性・矢野久子さん(仮名)です。
久子さんは、10年前に夫を亡くして以来、一人暮らし。生活費は年金月13万円と、夫が遺してくれた預貯金でまかなってきました。質素ながらも不自由のない日々を送っていたといいます。
ところが、ある日ふと気になって近所のATMで通帳記帳をしたところ、残高の減り方に違和感を覚えました。
「数ヵ月で何十万円も減っていたんです。たしかに多少の医療費や、孫にお小遣いをあげた記憶はあります。でも、それにしても減りすぎていて…」
最初は自分の記憶違いかと疑いましたが、記帳された明細をよく見ると、一定の金額が定期的に引き出されていることに気づきます。しかも、ATMからの引き出しではなく、「振込」の文字が複数記されていたのです。
久子さんは驚いて息子・智弘さん(仮名/47歳)に電話をしました。すると、智弘さんから返ってきたのは意外な言葉でした。
「お母さん、こないだ話したでしょ? 生活が苦しいから、少し援助してくれるって。あれ、俺の口座に送金してくれたやつだよ」
久子さんには、息子の頼みを受けた記憶はぼんやりとしかありません。「たしかに、電話で“困っている”と聞いたような気もするけど…そんな約束までしたかしら」と首をかしげました。
久子さんは、軽い認知機能の低下を指摘されたこともあり、「自分が忘れているだけかも」と自信を持てずにいました。
高齢者が家族に金銭を援助すること自体はよくある話です。ただし、本人が状況をきちんと把握しておらず、繰り返し引き出しが続いている場合、それは「家族間の経済的搾取」に該当する可能性もあります。
特に問題視されているのが、「親の預金を使い込む」ケース。家庭内の話として表に出にくく、警察や行政に相談されないまま放置されることも多いです。
認知症などの兆候がある場合は、なおさら本人の同意の有無があいまいになりやすく、トラブルの火種になりがちです。
