「まだ使えるから」と古いシステムを使い続けていたり、「リプレイスはコストがかかる」と先送りにしたり……。その「もったいない」という判断が、実は「2025年の崖」と呼ばれる深刻な経営リスクや、目に見えない「技術的負債」を積み上げる原因になっているかもしれません。本記事では、住田賢司氏の著書『STOP!迷走DX デキる上司のためのITリテラシー改革』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、多くの日本企業が抱えるレガシーシステムの問題点と、DX推進のために経営者が今すぐ取るべき判断について、ケーススタディと共に解説します。

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ケーススタディ:システムはリプレイスが不可避?

年商200億円、首都圏に10店舗を展開するJ社の社長は、自分ではITは得意分野だと思っています。簡単なプログラミングができるため、2000年に今の会社を創業する際、販売管理システムを自分でつくりました。当時はITを使える人や会社は多くなかったので、同業他社との差別化から事業成長ができたという成功体験を持ちます。その時につくった自作の販売管理システムを25年経つ今も使っています。

 

当初はIT担当が1人社内にいたのですが数年で離脱してしまい、システム開発会社がその業務を引き継ぎました。その後、IT担当者を新たに採用し、自社でできる日々の簡単な保守運用の作業は自社で行い、機能拡張やアップデートなどはシステム開発会社に頼む体制ができました。

 

業務拡大を続けるJ社ですが、IT担当者がたびたび代わり、引き継ぎを繰り返すにつれてシステムは膨大になっていきました。それぞれのIT担当者がそれぞれのやり方でシステムに手を加えていったために、いつしか同じようなコードが重複したり、不要なプログラムが消されないまま残ったりで、雑然とした巨大なシステムが出来上がってしまったのです。

 

社長は「安価にシステムが維持できれば」ということを最優先事項にして、最小限のシステム投資によって長期間運用してきました。しかし、さすがに四半世紀も経つとシステムも重くなり、時代に合わせた機能拡張やアップデートが難しくなります。

 

IT担当者が「システム開発会社がそろそろリプレイスしてはどうかと言っています。私もそのほうがいいと思いますが、いかがでしょうか」と進言してきました。

 

この進言を受けて社長が取った行動とは? あなたが次の選択肢から選ぶとしたらどうですか?

 

A:「まだ使えるシステムを捨てて、新しくするなどもったいない。今までもメンテナンスを繰り返して使ってきたのだから、これからもメンテナンスをしっかりやれば大丈夫だ」と考えて、今のまま使い続ける。

B:「リプレイスはいつかはしなければならないだろう」とは思うものの、今は予算に余裕がない。そのため、リプレイスに向けて準備をしつつ、予算を貯めていく。

C:「リプレイス以外の方法で使い続けられるようにしてくれるシステム開発会社があるはずだ」と考えて、今のシステムを長持ちさせてくれるシステム開発会社を探す。

〈解説〉日本企業の8割が抱えるレガシーシステムと「2025年の崖」

「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で指摘した言葉です。IT導入が始まった2000年代にシステム開発をし、そのまま使い続けている会社が日本にはごまんとあります。そうしたシステムの中には、適切かつ効果的にメンテナンスがされてこなかったり、過剰なカスタマイズを繰り返したりすることで老朽化・ブラックボックス化しているものが少なくありません。 こうした、老朽化、肥大化・複雑化、ブラックボックス化したシステムを「レガシーシステム」といいます。 また、システムが事業部門ごとにつくられ、全社横断的なデータ活用ができていない例もあります。

 

「DXレポート」では、なんと日本企業の約8割がレガシーシステムを抱えているとあります。 既存システムが抱える問題が解決されないとDXが実現できず、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があるとDXレポートには書かれています。

 

基幹システムがクラッシュして保守にかかる時間が多くなったり、DXの失敗を繰り返したりしていると、業務の停滞や間接コストが増大し、企業の競争力が低下します。 そんな企業が日本中に溢れたら……? 「坂を下るように」ではなく「崖を落ちるように」日本の経済活動が低下してしまうでしょう。その危機感が「2025年の崖」という言葉には表れているのです。

 

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STOP!迷走DX デキる上司のためのITリテラシー改革

STOP!迷走DX デキる上司のためのITリテラシー改革

住田 賢司

幻冬舎メディアコンサルティング

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