なぜエンジニアは「できない」と言えないのか? 発注失敗を招く「優しさ」と「諦め」の構造

なぜエンジニアは「できない」と言えないのか? 発注失敗を招く「優しさ」と「諦め」の構造

システム開発を依頼したら、期待と全く違うものが納品された。「できます」と言ったはずなのに、話が噛み合わずプロジェクトが炎上してしまった……それは、あなたとエンジニアとの間に横たわる、深刻なコミュニケーション・ロスが原因かもしれません。本記事では、住田賢司氏の著書『STOP!迷走DX デキる上司のためのITリテラシー改革』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、なぜエンジニアは「できない」と言えないのか、その心理的背景とコミュニケーション・ロスを防ぐための上司のITリテラシーについて解説します。

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ケーススタディ:エンジニアとのコミュニケーションにおける課題

出版社のY社では、編集業務の効率化および経費削減を目的として、編集作業をペーパーレスで行うシステムを導入しようとしています。これまで紙に赤字で修正していたものを画面上で行えるようにし、それをアカウントを持つ人同士で共有できる仕組みです。外注先とも画面上でスムーズにやりとりができ、編集履歴やそのやりとりのメールも残るので、作業を途中で別の人が引き継いでも流れが把握できるなどのメリットが多くあります。

 

ある程度のシステムの形ができたので社内で試運転をしてみたところ、データのアップロードに不便が見つかりました。 サーバーに原稿データをアップロードする際に、いくつかのステップを踏む必要があったのです。「1クリックでアップロードできないですか?」とシステム開発会社の担当エンジニアに相談したところ、エンジニアは「できなくはないですよ」との返答でした。

 

「できるんですね?」と念押しをすると、「まあ……はい」と言うので、「では1クリックでアップロードできるように修正をお願いします」と頼みました。

 

後日、システム開発会社から納品されたシステムを稼働してみてY社のIT担当者は驚きました。確かに1クリックでデータのアップロードができるのですが、そのためには事前にデータを6分割にしないといけなくなってしまったのです。これでは明らかに修正前よりも使い勝手が悪くなっています。

 

エンジニアに連絡を取り、「こちらが望んでいた形ではないです。これなら、むしろ修正前のほうがましでした」と伝えると、「そちらが1クリックにしてと言ったから、そのとおりにしたのに!」とキレてしまいました。

 

そのエンジニアの態度を見て、Y社ではどのように応じたでしょうか?

 

A:「確かに1クリックにしてと言ったけど、誰が考えても6分割なんておかしい」とあきれてものが言えなくなる。当該エンジニアとはコミュニケーションが成立しないと考えて、別のエンジニアに代えてもらう。

B:「なぜ最初に相談したとき、1クリックにするのは難しいと言ってくれないのか」と残念に思い、「できない」と言わなかったエンジニアに対して、こちらの言い方が悪かったのかと考える。次からは図や表でも伝えるようにする。

〈解説〉コミュニケーションが苦手なエンジニアも多い

エンジニアの仕事は一人で考えて作業する場面が多いので、非エンジニアの人は「エンジニアは対人コミュニケーションが苦手」という先入観があるようです。そのため発注者側はエンジニアとのコミュニケーションでストレスを抱えないよう、できるだけコミュニケーションを避けようとしてコミュニケーション・ロスが起こってきます。

 

しかし、ひと口にエンジニアといっても、要件定義から設計やテストなど工程全体に携わるエンジニアと、プログラムを入力する作業者に近いポジションのプログラマーがいます。大まかな傾向として、後者は寡黙であったり、言葉での表現が苦手だったりする人が多い印象です。 前者の場合は仕事上、発注者とのコミュニケーションが欠かせず、コミュニケーションが得意な人も多いです。しかしながら、コミュニケーションが得意であっても、専門的な内容を非エンジニアの人に分かりやすく伝えることが難しい場面が多々あり、発注者との間でコミュニケーション・ロスが起きやすいのです。

 

コミュニケーション・ロスは、複雑な技術的問題や潜在的なリスクを発注者が正確に把握する際に足かせとなることがあります。プロジェクトの問題点や懸念事項をユーザーに説明しなければならない場面で、エンジニアたちは相手の理解度によって簡単な説明で済ませたり、説明そのものを回避してしまうことがあるからです。

 

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住田 賢司

幻冬舎メディアコンサルティング

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